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『天国の事情』 ファイル１・パートナーの事情 ２＞＞ |
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１ 「……きさん……真希さん……」 ―――ここは、霊界。 天上界と地上、そして地獄との中間に位置する。 霊界には、人間の生前の罪業を裁く、霊界裁判所と。 古今東西あらゆる書物・資料(データ)を集めた、霊界図書館があって。 オレはここ、霊界図書館でいつものごとく昼寝をしていた。 「……真希さん……真希さんってば……」 「……起きてくださいよ……」 誰かの声がする。 グラグラグラ。 体が揺れる。 うるさいなァ、もう……。 ―――と、その時。 ドスッ！ 「ぐほぉッ」 何かがオレの腹の上に落ちてきたのだ。 「あ……あにすんだよぉ……」 オレは仕方なくソファから起き上がった。 「ったくぅ、倶生(くしょ)ちゃん妹かぁ？」 「ハズレ。兄です」 にッ。 オレの上に乗っていた、身長わずか40センチばかりのヤツが笑った。 「相変わらず区別できないんだから、まったく」 そして、もう１人。 現在はオレの脚の上に乗っている彼とそっくりな顔が、オレの上からのぞきこんだ。 彼らは、ここ霊界図書館の司書、倶生神(くしょうじん)兄妹である。 見た目は、普通の子供を若干小さくした感じに見えるが、実はオレよりもはるかに年上らしい。 双子の記録の神様だ。 「それより、真希さん。課長さんがお呼びですよ。仕事があるって」 倶生ちゃん妹がいう。 「仕事ぉ〜〜〜？」 オレが思いっきりイヤな顔をすると。 「あなた……仕事しに来てるんじゃないんですか？」 倶生ちゃん兄がオレの上に乗ったまま、あきれていった。 「あはは。そうだっけ」 「まったく。そんなんだから、いつまで経ってもパートナーができないんですよ。本っ当、『地天庁のムダ飯食い』なんだから」 ストンッ。 倶生ちゃん兄はオレから降りた。 「なっ……ははははは……」 オレは、倶生ちゃん兄のコトバに苦笑いを浮かべた。 ―――『地天庁』。 それは、天上界にある、地上人、つまり人間の魂を扱う庁である。 地獄の閻魔庁と共に、霊界裁判所の運営・管理を行っている。 オレ、天原真希は、その地天庁の中の治安部地上治安課というところに所属するバスターだ。 『バスター』とは、ありとあらゆる霊的トラブルの処理を専門に扱う、いわば“闇の始末人”のことである。 「あーあ。んじゃま、地天庁に戻るか」 オレは立ち上がって思いっきりのびをした。 すると。 「ホラ。あの人が例の……」 「本当に目が紫……」 妙な視線と話し声。 チラッと主のほうを見ると、ぴたっとやめてそしらぬカオをした。 ったく、相変わらずだなぁ。 オレはため息をついた。 「真希さん……」 倶生ちゃんズがオレを見る。 「まっ、ガキの頃からだしね」 オレは苦笑いを浮かべた。 オレの瞳は、生まれつき紫色である。 おかげでいつも好奇の目にさらされてきた。 でも、倶生ちゃん達のように普通に接してくれる人もいる。 だから、あまり気にしてはいない。 「でも、真希さん。昼行灯やめて、真面目に働けば、少しは減るんじゃないですか？ああいうの」 「うっ……」 「コトバ遣いも女性なのに男言葉でしか話さないし……そんなんだから、よけいに目立つんですよ」 じっ。 倶生ちゃんズがオレを見つめた。 「そっ、そんじゃ、仕事といくかなっ」 オレは２人を置いて、そそくさと歩き出した。 「召喚課の職員が行方不明、ですか」 「ああ。そうだ」 地上治安課に着くと。 課長の森村英里氏がオレを待ち受けていた。 白髪まじりで50代前半の、年の割にはスマートなおじさん、といった風情である。 オレが着くやいなや、課長はすぐに仕事の話を始めた。 「死因調査担当が東京で職務中にな」 召喚課とは、地天庁管理部の課の１つ。 人間の寿命の管理や死因調査を行っている課である。 「ちょっと待ってくださいよぉ。だったら、召喚課が捜しゃいいじゃないスかぁ」 オレが不満を口にすると。 「ほー、何をいってやがる。この給料ドロボーが。お前なんぞクビにしてやってもいいんだぞ？」 じろり。 課長はオレをにらんだ。 「わ……っ、わーッ、わかりましたっ。やりますっ、やらせていただきますぅっ」 「ん。よろしい」 はーっ。 課長にゃかなわんなー、まったく。 「―――それで、課長？わざわざバスターであるオレにお箱が回ってくるってことは、『何か』あるんですか？」 オレがたずねると、課長はうなずいた。 「どうやら何者かにさらわれたらしいんだ。はっきりしたことはいえんがな」 「はー」 「まぁ、詳しくはコレに書いてある。頼んだぞ」 課長はオレに資料を差し出した。 「了解」 オレは資料を受け取る。 そして、ドアのほうへと歩き出した。 すると課長がオレに一言。 「しっかり、な」 ニヤリ。 な……っ、なんだ？ あの笑みは……。 イヤな予感がすんなー、もう。 ―――というわけで、東京である。 行方不明なのは、松本葵。 地天庁管理部召喚課死因調査担当。 ３日前、東京にて職務中、行方不明になった。 ……とまぁ、まったく。 あーあ。 なぁんで、行方不明になった召喚課のヤツを捜さなきゃなんねーんだ。 なんか、やっかいごとはみーんな地上治安課に押しつけてる気がするよなー。 などと文句をいいながら、オレは彼の遺留品が発見された地点にやってきた。 「………」 ―――まっ、閑静な住宅街ってトコか。 パートナーと携帯電話で話し中、突然切れたらしいから、ここで何者かにさらわれた可能性が高いってワケだ。 ここには、彼の遺留品である携帯電話が発見された、と。 しかし、な。 オレはあたりを見回す。 ここに来た時からずっと、かすかにだけど感じるこのカンジ……コイツは霊気だ。 一体どこから―――？ オレは霊気をたどって歩き出した。 「桜守(さくらもり)神社……？」 しばらく歩くとオレは、神社の前にたどり着いた。 ―――ここからだ。 ここからあやしい霊気を感じる。 ……あれ？ ちょっと待てよ。 そういや最近、この辺で今回のと似たような事件があったような……。 と、その時だった。 「あのー、すみません」 誰かに後ろから声をかけられた。 振り返ると、オレとそう年の変わらない、20歳前後の男がいた。 身長もオレとそう変わらないところを見ると、170センチ前後というところだろう。 青いシャツにGパンという、ラフな格好で立っていた。 ……まあ、オレも似たような格好なので、人のことは言えないのだが。 「何スか？」 「あ……っ、あのー、人を捜してるんですけど、この辺でこの人を見かけませんでしたか？」 男は一瞬オレの瞳を見てとまどったようだったが、そういって１枚の写真を見せた。 ―――おや？ オレは思わずその写真と男を見比べる。 その写真は、今オレが持っているのと同じ、松本葵のものだったのだ。 ははーん。 おそらくこの男、松本葵のパートナーだな。 オレは再び男のほうを見た。 「どうですか？」 「……この人、松本葵っていうでしょ？」 「え……ッ」 男はオレの言葉に驚いたカオをした。 「ど……っ、どうして知って……っ」 「オレ、地天庁治安部地上治安課の東京地区(ファースト・ブロック)担当のバスターなんだ」 にっ。 オレは笑みを浮かべた。 「じゃあ、この事件の担当者で？」 「まぁね」 オレはうなずいた。 すると男は、何かを決心したかのようにオレを見て。 「葵は俺のパートナーなんだ。手伝わせてくれないか？」 「……だめだ」 オレは首を振った。 「どうして……ッ」 「この事件に深入りするな。わざわざバスターであるオレが動いてるのは、霊的なことが絡んでる可能性が高いからだ。たいした霊力(ちから)もないあんたにゃ危険だ。地天庁に戻んな」 オレはそういうと男に背を向けた。 ―――すると。 「……嫌だ」 「何……？」 ―――一瞬、ドキッとした。 まっすぐにオレを見る、強い瞳。 何にも負けない強い輝きを宿している。 こんな瞳をしてるヤツは、はじめてだ……。 「アイツは俺の大事なパートナーだ。このまま何もせずにいられるか」 「………」 男は相変わらずまっすぐにオレを見ている。 ―――仕方、ないな……。 「危険な目に遭っても知らんからな」 フゥ。 オレはため息まじりにいった。 「それじゃ……いいのか……？」 「好きにしな」 オレがそういうと、男はうれしそうなカオになった。 「そういや、お互い、まだ名前いってなかったな。オレは真希だ。天原真希」 「“真希”ィ？女みたいな名前だな」 「オレは女だっ！」 きっ。 オレは男をにらんだ。 「冗談だよ、冗談」 男は苦笑いを浮かべた。 ったくぅ。 身長170センチ。 ショートカットにジーンズの出で立ち。 おまけにこのしゃべり方。 ……確かにオレは男みたいだけどさ。 ちくしょーっ。 「ん……？ちょっと待てよ」 苦笑いを浮かべていた男が何か思い出したような顔になった。 「“天原真希”って、あんた、あの『地天庁のムダ飯食い』かぁッ！」 「う……ぐ……」 オレはコトバにつまってしまった。 オレも有名になったもんだ……ハハハ……。 「そっ、それより、あんたの名前は？」 「俺か？俺は森村海(かい)だ。よろしくな」 男……海は手を差し出した。 「ああ」 オレと海は握手を交わした。 こうしてここに。 オレと海の奇妙なコンビが誕生したのである。 あーあ。 やっかいごとが１つ増えちまったぜ、まったく。 |
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仔猫の遊び場
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