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『天国の事情』 ファイル２・親友の事情 ＜＜４ index＞＞ |
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５ 「御苦労さん」 倉庫から出ると。 海と意識が戻った紗智、 そして、数台のパトカーと室町さんがオレを出迎えた。 「なーにが『御苦労さん』だよっ」 キッ。 オレは室町さんをにらむ。 「自分はラクして犯人捕まえようって魂胆だったんだろーが」 「おれは別に通報を受けて、ここに来ただけさ。『ドンパチやってる音がする』ってね」 ニヤッ。 室町さんは笑みを浮かべた。 「ったくぅ〜〜〜」 「それより、真希。犯人は？」 海がオレにたずねる。 「中にいるよ」 クイッ。 オレは倉庫を指さした。 「ちゃんと生きてるぜ。室町さん、後はまかせた」 「ああ」 室町さんはうなずくと、数人の警官を連れて、倉庫の中へ入っていった。 そして。 しばらくすると、室町さんと一緒に、警官２人に支えられるようにして神田が倉庫から出てきた。 手には手錠がはめられている。 「………」 神田は紗智に気がついて。 立ち止まって、何もいわずに紗智を見つめる。 一瞬、顔をゆがめたが、すぐに再び歩き出した。 「それじゃあな」 室町さんはオレ達にそういうと、神田と共にパトカーに乗り込む。 そして、パトカーは動き出した。 「さてと、だ」 オレはパトカーを見送ると、紗智のほうを向いた。 彼女に以前感じた違和感は、今は消えていた。 「―――君は"河井紗智"だな？」 オレがそうたずねると。 「はい」 彼女はうなずいた。 体の主体が"紗智"に戻ったようだ。 「あの……事情は海さんから聞きました。本当にありがとうございます」 ペコッ。 紗智は頭を下げた。 「いやいや。これが仕事だからさ」 オレは首を振った。 「呪咀痕も意識が戻った時に消えたし、これで彼女、大丈夫だな？」 「ああ」 オレはうなずいた。 「……あの……」 紗智がためらいがちに口を開く。 「何？」 オレは紗智にたずねた。 「その……美咲ちゃん、どうなったんですか？」 紗智は不安そうなめ瞳をオレに向けた。 「そうそう。俺も気になってたんだ。意識が戻った時は、すでに"紗智"だったし。まさか、もう……」 「いや、霊界にはまだ行ってないよ」 オレは首を振った。 「まだ紗智の中にいる。……もっとも、そろそろ行かなきゃならないけどな」 「そんな……っ。あたし、まだ美咲ちゃんにお礼もいってないのに……！」 紗智は悲しみの表情を浮かべた。 「………」 オレは紗智を見つめて。 「美咲に、会いたいかい？」 「それはもちろん……！」 紗智は力強くうなずいた。 「……わかった」 スッ。 オレは呪符(フダ)を取り出した。 「真希？何をする気だ？」 「まぁ、見てろや」 オレは海にそういうと。 「幻影符」 フワ……ッ。 呪符が宙に浮かんで。 パァァァッ！ まぶしいくらいに輝いた。 そして――― 「こ……これは……ッ」 紗智と海が驚いたカオをする。 それもそのはず。 光の中から、美咲が現れたのである。 「一体……何が……」 美咲自身、驚いた顔で自分の体を見る。 美咲にも何がなんだかわからない様子だ。 「真希、まさか、お前……」 海の問いかけに、オレはにっと笑って。 「幻影符で美咲の肉体をつくって、そこに"美咲"を転移させたってワケさ」 「なるほどな」 海は感心してうなずいた。 オレは美咲と紗智のほうを向く。 「オレのつくる幻影は、"実体ある幻影"だ。……さ、お別れして来いや」 ポンッ。 オレは美咲の肩を軽く叩いた。 「美咲ちゃん……」 「紗智ちゃん……」 ２人はしばらく何もいわずに見つめ合う。 そして。 ガバッ。 紗智が美咲に抱きついた。 「……ありがとう……ありがとう……美咲ちゃん……っ」 「紗智ちゃん……」 「あたし、忘れないから。美咲ちゃんのこと、絶対忘れないから……！」 「あたしも……紗智ちゃん、あたしの分も元気で幸せに生きてね」 「うん……っ」 スゥ……ッ。 ２人の瞳に涙があふれる。 「―――それじゃ、紗智ちゃん……」 「……うん……」 ２人は名残惜しそうに離れて。 美咲はオレと海のほうを向いた。 「ありがとう……真希さん、海さん」 ペコッ。 美咲は頭を下げた。 そして再び、紗智のほうを見る。 「バイバイ。紗智ちゃん」 美咲は最高の笑みを浮かべると。 スゥ―――……ッ。 姿を消した。 「美咲ちゃん……！」 静かに。 紗智の瞳から涙がこぼれ落ちる。 紗智は空を見上げた。 「さよなら、美咲ちゃん」 「きっと美咲は、紗智の心の中で生き続けるんだろうな……」 いつまでも空を見上げている紗智を見つめてつぶやく海。 「ああ」 オレはうなずいた。 「２人は本当の親友同士だったんだな」 「……いや」 オレは海の言葉に首を振った。 「え？」 海はオレのほうを見る。 「親友以上さ。―――そう思わないか？」 「そうだな……」 オレと海は空を見上げた。 「……ま、何はともあれ、これで一件落着だな―――ってぇ、あっ！」 オレはふと、あることを思い出した。 「どうした？」 海がオレのほうを向く。 「美咲に例のお茶、おごってもらってなーいっ！」 「はァ!?」 海があきれ顔になったのは、 ―――まっ、いうまでもない、か。 -ＥＮＤ- |
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