|
『天国の事情』 ファイル２・親友の事情 ＜＜３ ５＞＞ |
|
４ 「あっ、真希っ！」 紗智の通う中学校の校門前。 海はオレに気がついて軽く右手をあげた。 「本当にすまんっ！」 パンッ。 海は手を合わせた。 「ちょっと目を離したスキにいなくなってしまって……」 ギュッ。 海はうつむいて強く唇を噛み締めた。 「それは、もういいさ。今はそれどころじゃない」 「……そうだな。これから、どうする？」 海は顔を上げてオレのほうを見た。 「きまってんだろ。彼女を捜すさ」 「どうやってだよ？」 「ジャーン」 にっ。 オレは笑みを浮かべて、ある機械をジャケットの内ポケットから取り出した。 「何だよ？ソレ」 「こんなこともあろうかと、きのう、彼女の服に発信機をつけておいたのさ」 パチンッ。 オレは受信機のスイッチを入れる。 画面の左端のほうで光点が点滅しはじめた。 「さすがは真希」 海は感心して受信機を見つめた。 「さあ、行こうぜ。彼女と、そして犯人(ヤツ)の待つ場所へ」 「ああ」 オレと海は空へ飛び上がった。 受信機で追跡すること10分。 オレ達は、東京湾近くの倉庫の前までやってきていた。 オレは倉庫を見上げる。 「はー、いかにもってカンジ」 「そうだな」 海も倉庫を見上げた。 ―――すごい霊気だ。 ひしひしと感じる。 まるで威圧されているようだ。 犯人(ヤツ)はとんでもない霊力(ちから)の持ち主らしい。 「そんじゃ、ま、行きますか」 ガラガラッ！ 重たいドアを開ける。 「―――」 そこには。 横たわった紗智の体と。 メガネをかけ、髪を後ろで束ねた男―――神田俊彦が、いた。 「おや、あなたは……」 フッ。 神田がオレ達に気づいて、不気味な笑みを浮かべた。 「神田先生。彼女は完治したハズだぜ？何診察してるんだよ」 コツ、コツ、コツ。 オレは神田に近づいていった。 足音が妙に響く。 「彼女を助けに来たってワケですか？ダーク・エンジェル、天原真希さん」 「……オレの名前をよく御存知で」 オレは神田をにらんだ。 「その紫の瞳」 神田はオレの瞳を見つめる。 「闇世界では有名ですからね。病院で会った時、すぐにわかりましたよ」 「あーそうかい」 フンッ。 オレは腕を組んだ。 「彼女を返してもらおうか」 「そうはいきませんよ。彼女には死んでもらわねばなりませんから」 ニヤッ。 神田はゾッとするほど不気味な笑みを浮かべた。 初めて会ったあの時と同じ感覚だ。 「……妹の、敵討ちか？」 「―――」 神田のオレを見る目つきが変わった。 「３ヵ月前、東都大病院の当時の外科主任が何者かに殺された。……殺したのは、あんただな？」 オレは神田の瞳を見ていった。 その瞳は冷たく光っていた。 「……あの男は死んで当然だ。私の大事な妹を―――殺した」 倉庫中に響く神田の声。 怒りとも悲しみとも取れなかった。 「せっかく見つかった臓器提供者(ドナー)……それを先に金を払っていた人間に……妹が死んで、そのことを知った時、私の心は狂気に満ちた……！」 ギラッ。 神田の瞳が不気味に光った。 「私の味わった苦しみを、あの男に、妹を犠牲にしてのうのうと生きている人間に、そして、あの男に金を払っている連中にも味わわせてやる。そう心に誓ったんですよ」 「それで殺したのか？外科主任も、子供達も」 オレは神田をにらむ。 そんなオレに神田は不気味な笑みを浮かべた。 「最高でしたよ。あの男の心臓を貫いた瞬間の苦しそうな顔。呪咀で徐々に息がか細くなり、喘ぐ子供達のあの姿。完治したはずの子供を突然失って、悲嘆に暮れる親たちの顔……！クックックッ……」 「………」 ギュッ。 オレは拳を握りしめた。 「彼女にも死んでもらわねば。……まさか、口封じに殺した子供の魂が乗り移って邪魔するとは思いませんでしたけれどね」 「……あんた、狂ってる」 キッ。 オレは神田を見据えた。 「今のあんたは、人間じゃない。復讐に狂った鬼だ」 スッ。 オレは懐から呪符(フダ)を取り出した。 「紗智を殺させるわけにはいかない。必死に彼女を守ろうとした美咲のためにも」 「……面白い。私と勝負するつもりですか」 フッ。 神田は笑みを浮かべた。 「いいでしょう。ダーク・エンジェル……！」 バッ！ 神田が腕を振ると。 ゴォーッ！ 「く……っ」 霊圧が襲ってきた。 「海ッ！大丈夫か!?」 オレはすぐ後ろにいる海に小声で声をかける。 「あっ、ああ。なんとか」 「神田(ヤツ)はオレが引き付ける。その間に彼女を頼む」 「ああ。わかった！」 海はうなずいた。 「頼んだぞッ！」 オレはそういうと。 ババッ！ 脇に飛んで。 「風刃符(ふうじんふ)ッ！」 ヒュッ！ オレは神田に向かって呪符(フダ)を投げた。 「フン……！」 ガシャァンッ！ 神田が呪符をかわし、後ろの窓ガラスが割れた。 オレはそれを確認せずにすぐ新たに呪符を投げる。 シュッシュッシュッ！ 風刃符が神田の体をかすめてゆく。 神田は呪符をすべてかわした。 ―――さすがだな。 「天原さん。これくらいでは私は倒せませんよ？」 ニヤッ。 神田は笑みを浮かべる。 フンッ。 オレはそれを鼻で笑った。 「あーそうかい」 そういいながらオレは、チラッと脇を見る。 オレの攻撃で神田は紗智の体から離れていた。 「それでは、私のほうからいきましょう」 サッ。 神田は右手をあげた。 「召鬼(しょうき)ッ！」 サッと神田が手を振り降ろすと。 オレの目の前に２匹の鬼が現れた。 「これは……っ」 「楽しませてくださいよ」 神田がそういうやいなや。 ２匹の召鬼がオレに襲いかかってきた。 オレは右に左に攻撃をかわして。 「風刃符ッ！」 スパッ！ 風刃符が召鬼に当たり、２匹とも真二つに裂けた。 ―――が。 「何……ッ!?」 スゥ……ッ。 召鬼は再び元に戻ってしまった。 「天原さん。彼らはその程度のことではやられませんよ」 ニヤリ。 神田は笑みを浮かべた。 「ちッ」 キッ。 オレは召鬼をにらんだ。 再び召鬼は攻撃をしかけてくる。 ちっくしょー。 これじゃキリがない。 破邪符(はじゃふ)を使えば、一発で消滅させられる。 しかし――― チラッと紗智のほうを見る。 ―――まだか。 オレと紗智の間のこの距離じゃ、紗智にまで威力が及んでしまう。 海は今、神田にばれないように移動中。 ヘタな行動を取れば、神田にバレてしまう。 紗智から離れようにも、コイツら、なかなかひつこい。 海が彼女のところにつくまでふんばるしか――― と、その時。 「何をしているッ」 「―――！」 ヤバイッ。 海が見つかってしまった。 「こそこそとムダなことを！」 ちィくしょぉッ！ 神田が右手を振り上げた瞬間。 「風刃符ッ！」 バババッ！ オレが投げた呪符で召鬼がバラバラになった。 そのスキにオレは海のほうへ飛び出す。 「海ッ!!」 ドォンッ!! 「………ッ！」 「真希ッ、大丈夫か!?」 海がオレに声をかける。 「なんとか……な」 ニッ。 オレは海に笑みを返した。 とっさにオレは、海をかかえ、横に飛んだのである。 しかし、その際、雷撃を左肩にかすらせてしまった。 オレは左肩をおさえて起き上がった。 「さすがは、ダーク・エンジェル」 「………」 オレは神田をチラッと見る。 召鬼はすっかり元に戻って、神田の横に控えている。 紗智の体は目と鼻の先。 どうするか――― 「……海。これを」 オレは海に一枚の呪符を渡した。 「これは……」 「結界符だ。―――彼女を頼んだぞ」 「……ああ」 海はゆっくりとうなずいた。 オレは立ち上がって神田を見据える。 そして。 ダッ！ オレは神田のほうへ飛び出した。 「召鬼、行けッ」 バッ！ 召鬼がオレに襲いかかってくる。 オレはそれをかわして、チラッと紗智のほうを見た。 ―――大丈夫だ。 「破邪符ッ！」 ドォンッ!! 「ギャーッ!!」 破邪符の衝撃波と。 召鬼の叫び声が倉庫に響いた。 「まさか、彼に瞬時に強い結界が張れるとは」 神田が驚いたカオで紗智のほうを見る。 そこには、無傷の海と紗智の体があった。 「彼の霊力では不可能だと思ってましたよ」 「残念ながら、コイツがあれば平気なのさ」 海は結界符を見せた。 「オレの結界符は、通常のより呪術力(ちから)が強いからな」 ニヤッ。 オレは笑みを浮かべる。 「なるほど、ね」 フッ。 神田も笑みを浮かべた。 「……海。彼女を連れて外へ出てろ」 「えっ？しかし……」 海は戸惑った顔をする。 「オレとコイツが本気でやり合ったら、その結界じゃもたん」 オレは神田のほうを見つめた。 「……わかった」 海はうなずくと、紗智を抱きかかえて立ち上がった。 そして、出口へと向かう。 しかし。 「そうはさせないッ」 神田は右手を上げた。 その瞬間。 「風刃符ッ！」 ヒュッ！ 呪符は神田の右手に当たった。 「………ッ」 流血する右手をおさえる神田。 「あんたの相手はオレだ」 キッ。 オレは神田を見つめた。 「……わかりました」 ペロッ。 神田は傷口をなめる。 そして不気味な笑みを浮かべた。 「それでは、覚悟していただきましょう……！」 ドドォンッ！ 突然、雷撃がオレを襲った。 「く……っ！」 雷撃をすんででかわす。 しかし、雷撃はまだまだ続いた。 ドドォンッ！ ドドォッ!! 雷撃はやまない。 人間のクセにすごい霊力だ。 オレは雷撃をかわしながら、 スッ。 呪符を取り出した。 そして。 「風刃符ッ！」 ドドオンッ!! オレはスキを見て、思いっきり神田の足下に呪符を投げつけた。 「くっ……！」 風圧で神田がひるむ。 そのスキに。 「破邪符ッ！」 ドゴオッ!! 「ぐオーッ!!」 呪符は完全に神田をとらえた。 そして。 ダァンッ！ 「ぐはッ……!!」 神田は思いっきり壁に叩きつけられた。 「オレの勝ちだな」 オレは神田の前に立つ。 「今のあんたは、立つことさえできないハズだ」 「………っ」 神田は動こうとしたが、苦痛で顔をゆがめた。 そして。 フッ。 自嘲的な笑みを浮かべた。 「完敗だな。……なぜとどめを刺さない？」 「………」 オレは神田を見つめる。 そして。 「だぁって、"殺し"なんかやったら、始末書の上に減俸モンなんだもん」 「……え？」 神田の目が一瞬、点になった。 「ただでさえ給料安いのに、減俸なんてされてみろ。オレ、生活できなくなっちまうじゃねーかっ」 ぐぐ……っ。 オレは拳に力をこめた。 「………」 神田はア然とした様子でオレを見つめていたが、やがて。 「……は、ははっ。面白い人ですね、あなたは」 神田は笑みをもらした。 「それに、そろそろ警察が来るさ」 オレがそういうと。 遠くのほうからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。 だんだん大きくなってゆく。 「あんたにとって妹が大切な存在だったように、美咲と紗智はお互いに大切な存在だった。―――まずは、生きて、罪を償うんだな。紗智に」 「………」 オレは神田に背を向けて歩き出した。 ―――が。 すぐにオレは立ち止まった。 「……神田」 オレは振り向かずに言葉を続けた。 「あんたのしたことは、許されることじゃない。だけど……同情だけはしてやるよ」 「………」 神田は、何もいわなかった。 オレはチラッと神田を見て。 ふっと笑みを浮かべる。 そして。 「じゃあな」 オレは軽く右手をあげて再び歩き始めた。 |
|
仔猫の遊び場
＜＜３
５＞＞
Copyright (C) 2000-2004 Kasabake |