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『天国の事情』 ファイル２・親友の事情 ２＞＞ |
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１ ―――オレは今。 最高に幸せだった。 音もなく静かな霊界図書館。 オレは、ソファの上で気持ちよくまどろんでいた。 しかし。 どこにでもいるもんである。 ヒトの幸せをぶち壊すヤローが。 「こら、真希。起きろっ」 ドカッ！ ソファが激しく揺れて。 「どわッ!?」 ドッターンッ！ オレは、ハデに落下した。 「い……っ、いてててて……」 オレは強打した頭をさする。 「ハデに落ちましたねー」 「大丈夫ですか？」 倶生(くしょ)ちゃんズがオレをのぞきこんだ。 「まっ……まぁ、な」 オレは倶生ちゃんズに苦笑いを見せると。 きっ。 オレの幸せをぶち壊したヤローをにらんだ。 「こーんな手荒な起こし方するこたねぇだろっ、海(かい)ッ」 「お前が悪いんだろーが」 冷めた口調で海がいった。 「あんでだよーっ」 「毎度毎度、まともに起こそうとしたって、起きないだろ、お前はっ」 海は腕を組んだ。 「そうですよ」 「あなたが悪い」 「倶生ちゃん達までいうかなぁ」 オレは倶生ちゃんズをうらめし気に見上げた。 海がオレのパートナーになって、早一ヵ月。 あれから、そう大きな事件(しごと)もなく、平和に過ぎていった。 その間に海はだいぶオレの扱いに慣れたらしく、このザマである。 倶生ちゃんズと仲良くなるのは結構だけど、つるんでコレはねぇよなー、まったく。 「それより、真希。仕事だ」 「仕事ぉ？」 オレはイヤな顔をする。 「おのれわ仕事しにきてるんだろーがっ」 きっ。 海はオレをにらむと。 がしっ。 オレの襟首をつかんだ。 「え？」 「さっ、行くぞ」 「うっ、うわぁーっ」 ズルズル。 オレは海にひきずられてゆく。 「さすがの真希さんも形無しですね」 「ホント」 オレの様子をニヤニヤ見ているだけの倶生ちゃんズ。 見てないで助けてくれー!! 「とりあえず、これを見てみろ」 バサッ。 課長は書類を机の上に出した。 「これは？」 オレと海は書類をのぞきこんだ。 書類にはそれぞれ顔写真がついている。 その顔はどれもあどけなさの残る顔であった。 「ここ３ヵ月に東京で呪殺された子供達だ」 「え……っ？」 「なんだって!?」 オレと海は驚いて課長を見た。 「殺されたのは、８歳から15歳までの５人。一見すると病死だが、召喚課が調べた結果、かすかだが呪咀の痕跡があったそうだ」 課長はため息をついた。 「これなら……俺も召喚課にいた時に担当したぜ。呪詛の痕跡があるにはあるが、犯人にはたどりつけなかったんだ。そうか……もう５人も……」 「………」 オレは黙って写真を見つめる。 まだ幼い顔。 やりきれなさが胸に広がった。 「それでな、この５人に共通したこととして、死ぬ直前に国立東都大付属病院に入院していたんだ。そこでお前達には、この東都大付属病院の調査と、もう１つ。この子の魂の回収を頼む」 そういって課長は、机の上の書類の中から１枚を取り出してオレに渡した。 肩ぐらいの髪の、かわいらしい中学生くらいの女の子だ。 「彼女の名前は、山内美咲、14歳。10日前に死亡した、一番最近の被害者だが、魂はまだ霊界に来ていない。本来ならまだ回収することもないんだが、事件が事件だ。何か知っているかもしれんからな」 「わかりました」 オレと海はうなずいた。 「これ以上犠牲者が増えれば、霊界裁判所や地天庁の運営に支障をきたしてしまう。頼んだぞ」 「でっけぇ病院だぁ」 「だな」 オレ達はさっそく、東都大付属病院にやってきた。 それにしても。 本当、でっかい病院である。 オレ達は思わず病院の目の前で立ちつくしてしまった。 「……っと。こんなことしてるバアイじゃないぞ、真希」 はっと我に返る海。 「あっ……ああー、そうだった」 オレも我に返った。 「それじゃ、行くぞ」 「ああ」 オレ達は病院の中へ入っていった。 病院の中は、いろんな人でいっぱいだった。 医者や看護婦、患者はもちろん、見舞い客があちらこちらにいる。 オレ達はそんな中、小児科病棟のナース・ステーションへ向かっていた。 「いいか、真希。俺達は山内美咲の知り合いだからな。ボロ出すなよ」 海はオレに向かっていう。 「へーい、へい。わかってますって」 オレは海に軽く答えた。 そう。 オレ達はこの事件の手がかりを得るために、例の山内美咲の知り合いのフリをして、看護婦に話を聞くことにしたのであった。 「なーんか頼りないんだよなー、お前は」 オレのいつもと変わらぬ態度にため息まじりにいう海。 「そんなこというなって」 オレは苦笑いを浮かべた。 ―――と、その時。 ドンッ。 オレは誰かにぶつかってしまった。 「あ……っと、すみません」 あわてて謝る。 相手は、髪を後ろで束ねてメガネをかけた、白衣姿の若い男だった。 胸には、『外科・神田』と書かれた名札がついている。 どうやらこの病院の医者らしい。 「いえいえ、こちらこそ」 その医者は笑顔でこたえた。 ―――が。 ゾク……ッ。 何故か、寒気がした。 何か……感じる……。 「あの……私に何か？」 思わず見入ってしまったオレに、医者はけげんそうな顔をする。 「あっ、いや、別に……」 オレはあわてて首を振った。 「そうですか。それでは」 医者はそういうと、再び歩き出した。 「………」 何だったんだ、今の……。 妙な感覚。 この寒気は一体―――。 「おい、真希。どうした？行くぞ」 「えっ……あっ、ああ」 海にいわれてオレは、あわてて歩き出した。 「そうですねぇ、美咲ちゃん、明るくて元気な子でしたよ」 オレ達は小児科のナース・ステーションにつくと、予定通り山内美咲の知り合いのフリをして、看護婦に話しかけた。 看護婦は少し驚いたような顔をしたが、すぐに信用して、話をしはじめた。 「そうですか」 「ええ。だから、少し寂しいです。突然でしたから……」 「そうですね」 海はあいづちを打った。 「でも、美咲ちゃんが死んで一番寂しいのは紗智ちゃんね、きっと」 「紗智ちゃん？」 オレは看護婦に聞き返す。 「美咲ちゃんのここ病院での一番の友達だった子です。河井紗智ちゃんといって」 「河井紗智……って、もしかして、あの河井物産社長令嬢の……？」 オレは看護婦にたずねた。 「ええ。御存知なんですか？」 「まぁ、名前だけは。結構有名ですから」 「２人とも親御さんがお忙しい方で、お見舞いになかなか来ない上に個室でしたから、それで仲良くなったみたいで」 「へー」 そういや山内美咲の母親はすでに亡くなって、父親は父親で、仕事で海外を飛び回ってるって資料にあったな。 ―――ふーん、友達、か。 「あの、河井紗智さんの病室はどこですか？」 オレは看護婦にたずねる。 「紗智ちゃんなら、一週間前に退院しましたよ」 「えっ？」 オレと海は聞き返す。 「紗智ちゃん、腎臓病だったんですけど、最近、移植手術を受けましてね。すっかり元気になったんですよ」 「そうだったんですか」 オレはうなずいた。 「どうもありがとうございました。美咲ちゃんの様子が聞けてよかったです」 オレは笑顔で看護婦にお礼をいう。 「いえいえ。どういたしまして」 看護婦も笑顔でこたえた。 「それじゃ、行くぞ。海」 「ああ」 オレ達はナース・ステーションを後にした。 「河井紗智に会ってみるのか？」 病院の廊下を歩きながら海がたずねる。 「ああ」 オレはうなずいた。 「それはそうと、海。ちょっと資料見せてくれ」 「えっ、ああ。はい」 「サンキュ」 オレは海から資料を受け取った。 「どうかしたのか？」 「いや、ちょっとね」 オレは、パラパラと資料をめくった。 ―――ふーん。 「ほい、サンキュ」 オレは海に資料を返した。 「真希……？」 海がけげんそうな顔をする。 「次のターゲットの目星がついたぜ」 「なんだって!?」 にっ。 オレは笑った。 「海。頼みがある」 「なんだよ？」 「霊界図書館行って、河井紗智のコト、調べてくれないか？」 「別にいいけど……もしかして、お前がさっきいってた、『次のターゲット』って……」 海がハッとした顔をした。 「そっ。河井紗智じゃないかと思ってね」 オレはうなずいた。 「なんでそう思うんだ？」 「さっき資料で確認したけど、今までの被害者は、山内美咲をのぞいてみんな、どこぞの会社社長の娘・息子だ。しかも、美咲以外の４人が退院直後に死んでる。つーことは、彼女もヤバイんじゃないかってね」 「なるほどね。で、お前はどうするんだよ？」 「オレはとりあえず、彼女のところへ行ってみるわ。もしかしたら、そこに山内美咲もいるかもしれないし」 「そうだな。２人は友達だったらしいからな」 「そーゆーコト」 オレはうなずいた。 「ところで、お前、河井紗智の家、知ってんのか？」 「まあ、有名だからな、河井物産社長は。有名どころの家は大体わかる」 「はー。ホント、ときどきお前が何者なのか、おどろかされるよ」 海は感心したような顔をした。 「ま、つーことで、頼んだぞ」 「ああ」 オレ達は病院の玄関を出た。 ―――なぁんか。 やっかいな事件(しごと)になりそうだな。 あーあ。 |
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