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『天国の事情』 ファイル３・親子の事情 ＜＜４ index＞＞ |
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５ 「よォ、廉。元気してるか？」 ガチャッ。 オレは病室のドアを開けて中に入る。 ここは、都内の警察病院。 稲田総合産業・ＥＳＰ研究所から保護された子供達は皆、ここに入院していたのであった。 「おかげ様で」 廉はオレと海に笑みを向ける。 「真希さんと海さんには本当、お礼いわなきゃ。ありがとう」 「いやいや。気にするなよ。なっ」 海はオレに同意を求めた。 「オレ達は、こういうのが仕事だからな」 オレはうなずいて笑みを浮かべた。 「それはそうと、廉。実はもう１人、お前の見舞いに来てるんだ」 「もう１人？」 廉がオレの言葉にけげんそうなカオをする。 「そっ」 にっ。 オレ笑うと。 「入ってきていいですよ」 オレはドアに向かって声をかけた。 ―――ガチャッ。 ためらいがちにドアが開く。 「かっ……母さ……っ!!」 廉が驚いた顔で入ってきた人の顔を見つめた。 ―――そう。 中に入ってきたのは、佑子さん、廉のオフクロさんだったのだ。 「廉……」 佑子さんはドアの前で廉を見つめる。 「―――」 「さっ、佑子さん。廉の近くへ行きなよ」 オレは佑子さんをうながす。 「えっ、ええ……」 佑子さんはためらいがちにうなずいて、ゆっくりと廉のそばへと行った。 ―――しかし。 「………」 「………」 ２人とも何もいわない。 気まずい雰囲気。 ―――まぁ、ムリもないか。 この２人の間には、14年間の月日が流れてしまっている。 その間にいろいろなことがあって。 ２人とも戸惑っているのだろう。 と、その時。 「………っ」 「佑子さん!?」 ダッ！ 佑子さんはドアのほうへと走り出して。 海があわてて引き留めた。 「どうしたんですか!?」 海が佑子さんにたずねる。 「やっぱり、だめよ……！」 佑子さんはドアのほうを向いたままいった。 「理由はどうあれ、私はお金のために息子を売った女です。今さら、もう……っ」 佑子さんは、両手で顔をおおった。 「佑子さん……」 オレと海は何もいうことができず、ただ佑子さんを見つめた。 ―――ふう。 オレはため息をつくと、廉のほうを見た。 「……廉。このままでいいのか？オフクロさんに聞くんだろ？"本当の気持ち"を、さ」 「―――」 廉は佑子さんを見つめる。 そして。 「……いや、もういいや」 廉はゆっくりと首を振った。 「廉？」 「聞かなくてもわかるよ。今の母さんを見れば。昔と変わらない優しい瞳をしてるから」 そういって廉は、佑子さんに優しい笑みを向けた。 「廉……」 佑子さんはゆっくりと廉のほうを振り返ると。 スゥーッ。 佑子さんは涙をこぼした。 「……さっ、佑子さん」 海が佑子さんをうながす。 「………」 佑子さんはゆっくりと廉のそばへと行った。 「母さん……」 廉は佑子さんの肩を抱き寄せる。 「………」 佑子さんは何もいわず、ただ、廉の胸に顔をうずめた。 ―――離れてしまった手が。 また、つながったな。 「……さて、海。オレ達は退散するか」 「ああ」 海はうなずいた。 オレはドアのノブに手をかける。 ―――が、オレはすぐに振り返った。 「あっ、そうそう。廉、これ」 「え？」 ヒュッ。 オレは廉にある物を投げ渡した。 「これは……」 廉が受け取って、それを見つめる。 「あ……」 佑子さんもそれを見つめた。 それは、例のロケットであった。 「そいつのおかげでお前は正気に戻ったんだ。……ま、大事にしとけや」 にっ。 オレは笑みを浮かべる。 「ああ」 廉はうなずいた。 「というわけで、そんじゃな」 「元気でな」 オレ達は病室を後にした。 「よかったな」 廉の病室を出て、まず一言、海が口を開く。 「ああ」 オレはうなずいた。 「あの２人を見てると、親子って血のつながりだけじゃないんだなって、実感させられるよ」 「……そうだな」 オレは遠くを見つめてうなずく。 「結局、"血のつながり"なんて、ただのきっかけにすぎないのさ。本当の愛情は、もっとちがうところから生まれるものだからな」 「ああ、そうだな」 海はうなずいた。 「―――しかし、今回の件は事後処理が山積みだなぁ。戸籍のない子供のことや、売られちまった子供のこともあるしな」 「そうなんだよ」 にょっ。 突然、後ろから室町さんが顔をのぞかせた。 「うわあッ！」 海が驚いた顔をする。 「ったく。なーにやってんのさ、室町さん」 「突然出てこないでくださいよォ。驚いたじゃないですかぁ」 「いやぁ、スマン、スマン」 ニヤッ。 室町さんは笑った。 「それよか、子供達の件、どーなったのよ？」 オレは室町さんにたずねる。 「今、警察が全力で身元捜しやってるよ。売られた子供達の行方捜しもな」 「人工受精の子供達はどうなるんですか？」 「引き取り手を探して、それで見つからなきゃ、施設に入れるさ」 「まっ、何にしろ、いろいろと大変なワケだ」 「まあな」 フウ。 室町さんはため息をついて苦笑いを浮かべた。 「……というワケで、真希。コレ」 室町さんはそういうと。 ピラッ。 オレに一枚の紙を差し出した。 「何コレ……ってぇ、え!?」 オレは思わず室町さんを見る。 その紙には、 『天原真希様 治療費として請求額一万円』 と書かれていた。 「ちょっと室町さんっ。コレ、どーゆーコトだよ!?」 「その腕」 ピッ。 室町さんはオレの左腕を指さす。 廉と戦ってケガしたところだ。 「お前の場合、保険なんかないからな。額が高くなるワケだ」 「そーじゃなくってっ。これくらい持ってくれよっ！今回、総務経由の事件(しごと)じゃねーから、金でないんだよ!!」 「甘い！おれはお前のいうように大っ変な、事後処理をしなければならん。お前の治療費まで面倒見れるか」 「そんな……ッ！」 「まっ、急いでとはいわん。しかし、ちゃーんと払えよ？真希」 室町さんはそういうと。 「それじゃ」 スタスタと歩いていってしまった。 「ちょっ、ちょっと待てよーッ!!」 オレの悲痛な叫びが。 病院内にむなしく響いたのであった。 〜〜〜ッ。 ちっくしょーっ、やられたあッ！ -ＥＮＤ- |
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