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『天国の事情』 ファイル４・霊能探偵の事情 ２＞＞ |
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１ 「………」 ―――今日も今日とて、霊界図書館。 オレは、いつものごとくお昼寝中。 しかし。 今日は、いつもと少し違っていた。 「きゃーッ、コレコレーッ！」 「いやーんっ、うれしーッ」 「ありがとーっ！」 ……やかましいな、ったく。 オレは薄目を開けて声のするほうを見る。 カウンターで倶生(くしょ)ちゃんズと女の子が３人、何やら雑誌を手にさわいでいた。 「本当にありがとう」 「それじゃあね」 バタバタバタッ。 ３人はうれしそうに立ち去っていった。 「なぁんだよ、アレ」 オレはゆっくりとソファから起き上がる。 ふわぁ。 オレはあくびをした。 「ああ、真希さん。起こしちゃいましたか」 倶生ちゃんズがオレに気がついて、こっちを向いた。 「あの人達に地上の雑誌を取り寄せるよう頼まれましてね。今日、届いたんですよ」 「地上の雑誌……？」 オレは聞き返す。 そういや、手に雑誌持ってたな、あの子たち。 「ええ。"朝月裕"とかいう人が載ってるヤツなんですけど……真希さん、知ってます？"朝月裕"って」 「……いや、知らんケド、そいつがどーかしたのか？倶生ちゃん妹」 オレがそういうと。 「私は"兄"です」 キッ。 倶生ちゃん兄はオレをにらんだ。 「あわわ」 「ったく。……それはともかく。なんでも今、地上で活躍中の霊能探偵らしいんですよ」 「霊能探偵だぁ？」 「ええ。最近、注目されるようになったとか」 「ふーん……」 "朝月裕"ねぇ。 まだ聞いたことねぇな。 「まっ、どーでもいーや。寝よ、寝よ」 オレはそういってソファに寝そべった。 ―――その時。 「何が寝よーだ。キサマ」 ドガッ！ ソファが激しく揺れた。 「どわっ!!」 ドッターンッ！ オレは床に落下した。 「い……っ、いったぁー」 オレは腰をさする。 「ったく。お前はヒマさえあれば、昼寝ばっかりしやがって」 海(かい)はあきれ顔でオレを見下ろした。 「いーじゃねーかぁ」 オレは海を見上げる。 「よかねーよ。ったく。ほら、仕事行くぞ」 ガシッ。 海はオレの腕をつかむと。 ズルズル。 オレを引っ張って歩き出した。 ちくしょーっ。 手荒なやつだあーっ。 「『週末殺人事件』……？」 オレと海は課長に聞き返す。 バサッ。 課長は資料を机の上に置いた。 「毎週土曜日の夜、きまって一人、殺されるんだ。先週の土曜日までで9人。同じ区内に集中している。被害者は一様に心臓がえぐりだされているが、他に外傷は見られず、えぐり出された心臟はいまだに見つかっていない」 コンッ。 課長は机の上の資料を軽く叩いた。 「へー……」 そういや、最近、地上でさわいでたな。 オレは資料をながめた。 「殺され方から、人間以外の犯行の可能性が高い。この事件の調査を頼む」 「了解しました」 「了解」 オレと海はうなずいた。 「前回の事件現場は、この辺か」 「………」 海が資料を片手にあたりを見回す。 ここは、東京都豊島区。 ……まっ、ごくフツーの住宅地である。 「あづ〜〜〜」 オレはパタパタと服をあおぐ。 今年は冷夏だと聞いていたが……やはり夏は夏。 ムシムシした気候のせいでじんわりと汗ばんできていた。 「しかし、きっちょーめんな犯人だよなぁ。毎週土曜日に事件起こすなんて」 ふう。 オレは服をあおぎながら、ため息をついていった。 「お前とは大違いだな」 にやっ。 海は笑みを浮かべた。 「よけーなお世話だよっ」 「それはともかく、事件現場へ行こうぜ」 「ああ……って、もしかして、あの黒山の人だかりんトコか……？」 オレは前方を指さす。 「えっ、あっ、ああ。そうみたいだな……」 海も資料と見比べながらオレが指さしたほうを見た。 異様な人の多さ。 見てるだけでもますます暑くなってきそうである。 こんなクソ暑い日に一体何なんだ、ありゃ。 「とりあえず行ってみよう」 「んー、仕方ねーなぁ」 オレ達は人だかりのもとへと向かった。 ―――この人だかり。 近づいてみると、なんと大半が女の子であった。 事件現場を取り囲むようにして立っている。 その中心では何やらテレビの撮影か何かしているようだ。 一体何なんだよ、まったく。 「あのー、何なんスか、コレ？」 オレはすぐ近くの女の子に声をかけた。 「えっ、知らないんですか？あの朝月裕サマがテレビの収録で『週末殺人事件』の霊視をしてるんですよ」 「はッ!?霊視!?」 「朝月裕が!?」 オレと海は思わず聞き返した。 "朝月裕"だぁ？ さっき霊界図書館で聞いた名前じゃねーか。 「おい、知ってるのか？"朝月裕"って」 海が小声でオレにたずねた。 「なんでも、最近有名な霊能探偵らしーぜ」 「霊能探偵!?」 「あのジャラジャラしてるのがそーかな？」 群集のすきまから姿が見えた。 ズルズルの服にジャラジャラの装飾品。 長髪で赤い髪。 化粧してて、中性的なキレイな顔立ち。 女みたいにも見えるけど……このファン層から見ると、男らしい。 こんな日に、見てるこっちも暑くなるような、実に暑苦しい格好だ。 アイツが例の霊能探偵―――か……。 「あっ、おい、海。あそこに見慣れた顔があるぜ」 「えっ？」 オレはある顔に気がついて朝月裕の向こう側を指さした。 海もそっちのほうを見る。 「あれっ。室町さんじゃん」 そう。 テレビスタッフに交じって、室町さんがいたのである。 「ちょっと行ってみようぜ」 「ああ」 オレ達は群集をかきわけながら進んだ。 「おーいっ、室町さんっ」 オレ達はなんとか人をかきわけて最前列へ行くと。 室町さんに声をかけた。 「おー、真希に海くんか」 室町さんがオレ達に気づいて振り向く。 「そっち行ってもいーい？」 「んー、ま、お前達ならいっか。来いよ」 「サンキュー」 オレ達はまわりの女の子のうらやましそうな視線を背に、ロープをくぐった。 「なーんなの、コレ？」 「"朝月裕"とかいう霊能探偵が霊視してるって聞きましたけど」 オレ達は室町さんにたずねる。 「ああ。今、すごい人気らしくてな。収録のウワサ聞きつけたファンでこの有様さ」 室町さんはため息をついた。 「で、なんで室町さんがここにいるワケ？」 「あっ、あー、それはな……」 室町さんはいいよどんだ。 「なによ」 「……警視総監のお気に入りなんだよ、彼」 「―――はっ？」 オレと海は思わず室町さんを見つめる。 室町さんは恥かしげに顔をそむけた。 朝月裕が。 警視総監のお気に入りだと―――!? 「いやね、彼、今まで数々の難事件を解決しててさ。それで警視総監が気に入っちゃって、様子を見てこいって」 「はー」 フウ。 室町さんは肩をすくめてため息をついた。 ……大丈夫なのか、日本の警察……。 「それはそうと、そういうお前達も、ここにいるっていうことは、『週末殺人事件』を？」 「まぁね」 オレはうなずいた。 「現場に来たら、この有様でしょ？驚きましたよ」 「だろうなぁ」 ―――などと室町さんと話していると。 「あなた方は？」 なんと。 さっきまで向こうのほうで収録していたハズの朝月裕がオレ達に話しかけてきたのだ。 なんかこの男。 真近で見れば見るほど女みたいに見えるなぁ、マジで。 「あっ、朝月さん。収録、終わったんですか？」 「ええ。おかげさまで」 朝月裕は室町さんにこたえた。 「彼らは私の友人でしてね。彼らも『週末殺人事件』を調べているそうです」 「どうも。天原真希です」 「森村海です。よろしく」 オレと海は朝月裕にあいさつした。 「こちらこそ。……ということは、あなた方は探偵か何かで？」 「まぁ、似たよーなモンです」 オレは朝月裕に答えた。 すると。 「そうですか」 クス……ッ。 朝月裕は笑って。 「今回の事件、人間の仕業ではないですよ」 「はっ!?」 オレと海は思わず聞き返す。 朝月裕の顔には、なんともいえない笑みが浮かんでいた。 コイツ―――……。 「それでは失礼します」 朝月裕は近くに停っているロケバスのほうへと歩き出した。 「……ちょっと待って」 オレは朝月裕を呼び止める。 「何でしょう？」 朝月裕は振り返った。 「ずっと気になってたんだけど……おたく、オカマ？」 「………」 シーン。 その場にいた者は皆、一瞬黙ってしまった。 朝月裕もボー然とオレを見つめていたが、やがて一言。 「私は普通の男ですッ！」 そういうと。 さっさとロケバスの中へ消えていってしまった。 「……なぁ、真希。どう思う？」 朝月裕を見送ると、室町さんが口を開いた。 「どうって？」 オレは室町さんに聞き返す。 「あの"朝月裕"さ」 室町さんはロケバスを指さした。 「ああ、あのにーちゃんね。……オカマじゃん、やっぱ」 オレがそう答えると。 「そーじゃなくってっ」 キッ。 室町さんはオレをにらんだ。 「アイツが本当に"霊能探偵"なのかってコトだよっ」 「あは、あはあはっ。わーってるって」 オレは苦笑いを浮かべる。 「ったく……」 室町さんはあきれたかのようにため息をついた。 「そうだなぁ」 手を頭の後ろで組む。 「おれはお前と知り合って、そういう"力"があるっていうのは理解できるようになった。でも、アイツはなんかイマイチ信じられないんだよ」 室町さんはそういってロケバスのほうを見つめた。 「というと？」 オレは室町さんにたずねる。 「今までアイツは、数々の難事件の答えをすぐに出した。なのに今回のこの『週末殺人事件』だけは、さっきお前にもいってたように『人間の仕業じゃない』の一点張りで、それ以上の答えを出そうとしない。それがなんかひっかかるんだよ」 室町さんは腕を組んだ。 「刑事のカンってヤツですか」 にっ。 オレは笑みを浮かべる。 「んー、まぁ、そうだな」 室町さんは軽く笑ってうなずいた。 「事件とあのにーちゃんが関係してるかどーかは、オレには何ともいえないけど……まっ、あのにーちゃんがいってることは当たってるな」 「というと？」 室町さんはオレにたずねた。 「この辺一帯、妖気が漂ってんだよ。この事件、十中八九妖怪の仕業だぜ」 「……てことは、おれの勘ぐりすぎか」 室町さんはため息をついた。 「いや。そーともいえないぜ」 「えっ？」 にっ。 オレは室町さんに笑みを向けた。 「あのにーちゃん、はっきしいって、霊力、たいしたことないぜ。あの霊力(ちから)じゃ、霊視なんざできるわけない」 「じゃあ、どうして今まで事件を解決できたんだよ？」 海がオレにたずねる。 「さぁてね」 オレは肩をすくめた。 「……ただ気になるのは、あのにーちゃんからかすかに妖気を感じたことさ」 「なんだって!?」 海と室町さんは驚いてオレを見た。 「もっとも、周辺の"気"を吸っちまう体質っていう可能性もあるからな。あのにーちゃん自身のものかどうかは、わかんないケドね」 「そうか……」 室町さんは考え込むような表情をした。 「まっ、調べてみる価値はあるんじゃねーの？あのにーちゃん」 そういうとオレは。 朝月裕が乗り込んだロケバスをながめた。 |
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