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『天国の事情』 ファイル４・霊能探偵の事情 ＜＜１ ３＞＞ |
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２ 「朝月裕。本名は朝倉祐介。富山県出身で現在26歳。自称・霊能探偵。東京都豊島区在住で、同区に事務所もあるようですよ」 カチッ、カチッ。 マウスをクリックする音が響く。 ここは霊界図書館である。 「ふーん……見たところ、おかしなところはないな」 海がパソコンをのぞきながらいう。 「18歳で上京して、東京の大学を卒業。その後はフリーターを経て、現在は霊能探偵、か」 「ふーん」 オレも画面をながめた。 「じゃあ、霊能探偵も、バイトがきっかけかな？」 「そんなもんじゃねーの？はなっから『霊能探偵になりたい』なんてヤツ、会ったことねーよ」 「だな」 海はうなずいた。 「……なぁ、倶生(くしょ)ちゃん兄」 「私は"妹"です。兄はこっち」 倶生ちゃん妹はオレに不機嫌そうにいった。 「ありゃりゃ」 「まったく、もう」 倶生ちゃん兄があきれ顔でオレをにらむ。 「それより何ですか」 倶生ちゃん妹がため息まじりにいった。 「あっ、いや、朝月裕が霊能探偵として有名になったのって、いつ頃なワケ？」 「さあ……出てませんけど、ここ２、３ヵ月だって聞いてますよ。事務所を持ったのは、つい1ヵ月ほど前みたいですし」 「ふーん……」 オレはうなずいた。 「で、どうすんだよ？これから」 海がオレにたずねた。 「そうだなー……っと、あれ？」 オレは見覚えのある顔を向こうに見つけて目を留めた。 「どうした？真希」 海がけげんそうにたずねる。 「いや、ちょっと……」 女の子が３人、こっちに向かってきている。 あの子たちは確か……。 「おや、あなた達はきのうの」 倶生ちゃん妹が彼女達に気がついて声をかけた。 「どうもきのうはお世話様でした」 「わざわざ地上の雑誌を取り寄せていただいて」 「本当に感謝してます」 ―――そう。 彼女達はきのうオレの眠りを妨げてくれた、あの女の子たちだったのだ。 「いえいえ。あれくらい、たいしたことではありませんよ。それより、今日の御用件は何ですか？」 優しい態度でたずねる倶生ちゃん兄。 コイツ、オレにこんな態度見せたことあったっけ……。 「じつはまた取り寄せてもらいたい雑誌があるんですけど……あれ？」 そういって女の子はパソコンの画面のほうを見た。 「これ……朝月裕さんのデータじゃありません？」 「えーっ、うそうそ」 「本当だぁ」 ３人は画面をのぞきこんだ。 「朝月さんのこと、調べてるんですか？」 ３人のうちの１人がオレにたずねた。 「まぁね」 オレはうなずいた。 「君達、彼のファンだよね？」 オレは彼女達にたずねる。 「え……そうですケド、よく御存知で」 彼女達は少し驚いたようなカオをした。 「だってオレ、きのうここで昼寝してたから」 にっ。 オレは笑った。 「気づかなかった……」 「それでさ、彼のことで知ってることない？どんなことでもいいんだけど」 オレがそうたずねると。 「そうですねぇ……朝月さんが以前占い師だったってこと、知ってます？」 女の子のうちの１人が答えた。 「え……何だって……？］ オレと海は彼女のほうを見る。 朝月裕が元占い師だと……？ 「なんでも、池袋のほうでやってたらしいですよ。……実はコレ、ファンにもあまり知られてないことなんですけど。ねっ」 「うん」 彼女は他の２人と一緒に得意気な顔をしていった。 「そこで彼、有名だったわけ？」 オレは彼女にたずねる。 「いえ、有名ってほどじゃなかったみたいですよ」 「ふーん……」 ただの占い師が今や売れっこ霊能探偵―――か……。 「どこでやってたかわかる？」 「いえ、そこまでは……」 「おい、倶生ちゃん妹」 「はい」 倶生ちゃん妹はオレのいいたいことを察してパソコンをいじり始めた。 「真希さん、ありましたよ」 「どこだ？」 オレと海はパソコンの画面を見る。 「池袋の東口のほうですね。『アルファー』っていう店です」 「真希、行ってみるか？」 「ああ」 オレはうなずく。 海は住所をメモった。 「君達、情報提供ありがとう」 にこっ。 オレは笑みを浮かべる。 「えっ……い、いえ……」 彼女達はなぜか戸惑いがちにこたえた。 「よし、行こう」 オレと海は霊界図書館を後にした。 「『アルファー』、ここか」 ここは池袋の東口の先。 サンシャイン60通りの裏のとある雑居ビルの前である。 オレ達はビルを見上げた。 「どーやらここの２階のようだな」 「それじゃ真希、行くか」 「ああ」 オレ達はビルの中へと入っていった。 中に入って階段を昇ると。 そこには結構広いスペースが広がっていた。 部屋の中がいくつかに区切られていて、それぞれの場所には何人かが順番を待っている。 オレ達はその中で一番すいているところに並んだ。 「次の方、どうぞ」 幕の向こうから声がして。 オレ達は中に入った。 「何を占いましょう」 女の占い師がタロットカード片手にオレ逹にたずねる。 「いや、オレ達はそういうことで来たんじゃないんだ」 「というと？」 占い師はけげんそうな顔をした。 「以前ここで働いてた、朝倉祐介ってヒトのことを教えてもらいたいんだ」 オレがそういうと、占い師はじっとオレ達の顔を見つめた。 「……あなた達、探偵か何か……？」 「まっ、そんなトコ」 にっ。 オレは笑みを浮かべてうなずいた。 「いいわねー、そういうの。ワクワクするっ」 占い師は目を輝かせた。 「残念ですけど、調査目的は教えられないですよ」 海が苦笑してそういうと。 「なあんだ」 占い師はがっかりした顔をした。 「ごめんね。一応秘密保持が原則ですから」 にっ。 オレは笑みを浮かべた。 「……まっ、現実なんてこんなもんか。いいですよ。お教えしましょう」 「どうもおおきに」 オレがそう礼をいうと。 「そのかわり……お金くれない？」 にこっ。 占い師は笑みを浮かべて手を差し出した。 「ここ、結構キビしくてね。目標額稼がないといろいろうるさいんですよ」 占い師は恥かしそうな顔をした。 「ああ、いいっすよ。仕事のジャマしちゃうワケだから。千五百円でいいよね？」 オレは脇に張ってある紙を見ていった。 「ええ」 「それじゃ、はい」 オレは占い師にお金を渡す。 「ありがとうございます」 占い師はお金を受け取った。 「それで、朝倉祐介のことなんだけど」 「朝倉くんね。あの子、顔はキレーなんだけど、占いはさっぱりだったわね。でも、口がうまかったから、それで何とかなってたってカンジだったわ」 「へー……それで彼、いつまでここに？」 オレは占い師にたずねた。 「３ヵ月くらい前までいたかしら……あっ、そうそう、３ヵ月前に突然、ウチのオーナーが彼をやめさせたのよね」 「どうしてですか？売上げが不振だったとか？」 海がたずねると、占い師は首を振った。 「ううん。そうじゃないわ。あれでも彼、売上げは結構良かったから」 「それじゃあ、なんで？」 オレは占い師にたずねた。 「彼、今、"朝月裕"って名前でテレビによく出てるわよね？」 「よく御存知で」 「そりゃあそうよ。ソレが彼がここをやめる原因だったんだから」 「というと？」 オレがたずねると、占い師は声を潜めるようにして。 「ここだけの話、彼、その番組で"やらせ"をしたのよ。そのことがオーナーにバレてね。いくら名前を変えて、格好を変えたって、わかる人にはわかっちゃうじゃない？それでオーナーが怒って、やめさせちゃったってワケ。ここ、一応、実力主義で売ってるところだからねえ」 「なるほどね」 オレはうなずいた。 「ただ……今の彼の活躍を見てると、とても"やらせ"だけじゃない様に見えますよね。難事件をいくつも解決した、とかいってたし」 海がそういうと。 「そうなのよねえ。彼、占いは本当、さっぱりだったのに。あそこまで事件を解決してるとなると、ねえ。私もちょっと信じられないんだけどね」 ―――確かにそうだ。 なぜ突然、当たらない占い師が売れっ子霊能探偵になれたのだろう。 はじめは"やらせ"にしろ、今はあの様子からすると、とてもやらせとは思えない。 警視総監までもが肩入れするくらいなのだから。 この３ヵ月に、彼に一体何があったのだろう……。 「どうもありがとう。参考になりましたよ」 オレは笑顔で占い師にいう。 「いえいえ。こちらこそ、お金、頂いちゃって」 占い師も笑顔でこたえた。 そして。 「あっ、そうだ」 占い師は何か思いついたような顔をした。 「何っスか？」 「せっかくだから、何か占っていきません？」 「えっ、いいですよ、別に」 オレはそう断った。 ―――が。 「いいじゃないか、真希。占ってもらえよ」 海がそんなことを言い出した。 「おいおい、海ィ」 「それじゃ、きまりね」 そういって占い師はタロットカードを切り始めた。 しゃーない、占ってもらうか。 オレはタロットカードの動きを見つめた。 占い師はカードを並べる。 そしてカードを見つめて一言。 「あなた……金運ないわねぇ」 「は……っ」 オレは思わずカオがひきつってしまった。 海はというと。 後ろで１人、大爆笑していた。 「ふーん、ここがそうか」 オレ達はとあるビルの前で立ち止まる。 ここは豊島区池袋西口。 朝月裕の事務所の前である。 ビルの１階にテナントとして朝月裕の事務所はあった。 窓ガラスには『朝月裕・霊能探偵事務所』と書かれていた。 「アポなしで大丈夫なのかよ？相手は人気霊能探偵だぜ？」 海が心配そうにいう。 「大丈夫、大丈夫。オレ悪運強いもん」 にやっ。 オレは笑みを浮かべた。 「そういう問題かよ〜〜〜」 海はあきれ顔になった。 「なーんてね。実はちゃんとアポ取ってあったりする」 「えっ？」 海はオレのほうを見た。 「お前、いつのまに……」 「『アルファー』で順番待ってる時にね」 「そういえば……。でも、よく直前でアポ取れたな」 「警視庁の名前使ったから」 「はぁ!?」 海は目を丸くした。 「別にいーじゃん。警視庁には日頃貢献してるんだからさ」 オレはにやっと笑う。 「何かあったらどうするんだよ」 「そんときゃ、室町さんに責任取ってもらうさ」 オレはさらりと答えた。 「お前ってヤツは……」 海はあきれ顔でいった。 ―――と、その時だった。 バンッ！ 勢いよく事務所のドアが開いて。 「お願いですッ！朝月先生に会わせてくださいっ!!」 １人の若い女の人が朝月裕のマネージャーらしき人に追い出されるようにオレ達の目の前に現れた。 20代半ばくらいだろうか。 ショートヘアのなかなかの美人である。 ……あれ？ この女性(ひと)、どこかで――― 「だめですよ。何度いったらわかるんですか」 朝月裕のマネージャーらしき人があきれ顔でいう。 「でも……っ」 その女性は食い下がった。 ―――しかし。 「先生は忙しいんです。もうすぐ次のお客さまも来る。あなたのような人を構っている暇はないんです。お帰りください」 マネージャーは冷たく突き放した。 「………っ」 女性は悔しそうに唇をかんだ。 「ちょおっと、それはないんじゃない？」 しばらく何もいわずにその様子を見ていたオレ達は２人のほうに近づいた。 「こんなに必死な人をそんなに無下に扱うなんて、あまり感心できないぜ。なぁ？」 オレは海に同意を求める。 「ああ。そうだな」 海はうなずいた。 「一体なんなんです？あなた達は」 マネージャーはけげんそうな顔でオレ達を見た。 「おたくがいうところの"次のお客さま"」 オレがそういうと。 「こっ、これはこれは……失礼を致しました。天原様ですか？」 マネージャーはあわてて営業スマイルを浮かべた。 「そーですけど」 オレはうなずいた。 「お待ちしておりました。さあ、どうぞ中へ」 マネージャーはオレ達をうながした。 「その前に、この女性(ひと)を朝月さんに会わせてあげてくんない？」 くいっ。 オレは女性をあごで指した。 「………！」 女性は少し驚いたような顔をした。 「しかし……」 マネージャーは困ったような顔をする。 「なぁんか、不都合でもあるワケ？」 「あなた方の後にもお客さまはたくさん控えております。そういうわけには……」 「オレらの用なんて、そんな時間なんかかかりゃしませんよ。先にこの女性(ひと)が入ったって、あとには差し支えねーと思うけど」 オレがそういうと、マネージャーはため息をついた。 「この人はですね、先生に言いがかりをつけに来ただけなんですよ」 「そんなっ、言いがかりだなんて……っ！」 女性は今にもかみつきそうになりながらいった。 「言いがかりもいいところでしょう？先生が―――」 マネージャーがそういいかけると。 「いいでしょう。お会いしましょう」 「―――！」 「先生……！」 赤い長髪に女みたいな顔。 ズルズルの服にジャラジャラの装飾品。 相変わらずの姿で朝月裕が現れたのだった。 「警察の方が来ると聞いていましたが、天原さん、あなた方でしたか」 朝月裕はオレ達を見ていった。 「こうでもいわないと、すぐに会ってもらえなさそうでしたから」 にやっ。 オレは笑みを浮かべた。 「そうですね」 ふっ。 朝月裕も笑みを浮かべた。 「それではお三方とも、中にお入りください」 朝月裕はオレ達をうながした。 「はい」 不満顔なマネージャーを尻目に、オレ達は事務所の中に入っていった。 「一体、何を話してるんだろうな」 オレ達は、待合室にいた。 例の女性の話が終わるのを待っていたのであった。 「……あっ、そっか」 ポンッ。 オレは手を打った。 「なっ、なんだよ、突然」 海がけげんそうな顔をする。 「やっと思い出した。どうりで彼女に見覚えがあるはずだ」 「は？だからなんだよ？」 海はますますけげんそうな顔になった。 「彼女、週末殺人事件の、最初の被害者の婚約者だぜ」 「えっ!?」 海は驚いた顔をした。 「どうりで見覚えがあるはずだよ。事件の資料に彼女の顔、載ってたもん」 「マジ？」 ガサッ。 海は資料を取り出した。 そして、パラッ。 資料をめくる。 「な？あるだろ？」 オレは彼女の写真を見つけて指差した。 「まさしく彼女だな」 海はうなずいた。 「えっと……彼女の名前は滝口綾子、28歳。2ヵ月前の６月14日に死亡した、時田公平の婚約者、か」 海は資料を読んだ。 「しかし、彼女が何でここに？」 「さあてねぇ……」 オレは腕を組んだ。 『言いがかりをつけにきた』 マネージャーはそういってたっけ。 彼女は週末殺人事件の被害者の婚約者だった。 てことは……。 ―――と、その時だった。 「ひどいよッ、朝倉くん!!」 そんな。 滝口綾子の声が応接室のほうから聞こえてきたのだった。 今、彼女。 『朝倉』っていってたな。 それって、朝月裕の本名じゃねーか。 しかも"くん"付けだし。 彼女、朝月裕とどういう関係だ……？ オレと海は気になって応接室をそっとのぞいた。 「………」 そこには。 冷めた顔の朝月裕と、顔を伏せって泣いている滝口綾子がいた。 「ちょっと、女の人泣かすのはあまりよろしくないんじゃない？」 オレは応接室の中に入った。 海もオレに続く。 「………！」 「天原さん」 ２人はオレ達のほうを見た。 「あなた方には関係のないことでしょう」 朝月裕はオレ達に冷たく言い放つ。 「そうもいかねーよ。彼女をおたくに会わせたのはオレらだし、同業者としてほっとけないからな」 オレは滝口綾子のほうに近づきながらいった。 「大丈夫ですか？」 オレは彼女に声をかける。 「はい……」 彼女は涙で濡れた顔を拭ってうなずいた。 「同業者、とはどういう意味ですか？」 朝月裕はけげんそうな顔をしてたずねる。 「オレらが『週末殺人事件』を調べてるのは、探偵だからじゃあない。天上界の地天庁治安部地上治安課のバスターだからさ」 「………」 ピクン……ッ。 一瞬、朝月裕の表情が動いたのをオレは見逃さなかった。 「真希、何いって……っ！」 海が驚いた顔でオレを見る。 オレはそんな海を軽く制して、朝月裕の様子をうかがっていた。 ―――しかし。 「"天上界の地天庁治安部地上治安課のバスター"……？」 そうたずねる朝月裕の表情は普通の表情に戻っていた。 「……まっ、わかんねーならいいや」 ふ……っ。 オレは笑みを浮かべた。 「さて、帰ろうか」 「え……!?でもまだ……っ」 海は戸惑いの表情を浮かべた。 「いーから。オレは泣いてる女性(ひと)をほっとけるほど冷めたヤツじゃないの。……それに、もう確かめたからな」 にっ。 オレは朝月裕のほうを向いて笑みを浮かべる。 「………」 朝月裕はただそんなオレを何もいわずに見つめていた。 「確かめた……？」 海はけげんそうな顔をする。 オレは滝口綾子のほうを向いた。 「一緒に帰りませんか？こんなのにかみついてたって、なんのイミもないですよ」 「………そう、ですね」 滝口綾子はうつむいてうなずいた。 「それじゃ。……海、帰るぞ」 オレは海にそういうと、滝口綾子の肩に軽く手を置いて歩き出した。 「え……っ、あっ、ああ」 海は慌ててうなずくとオレの後に続いた。 「またあとで会おうぜ」 にっ。 オレは笑みを残して、朝月裕の事務所を後にした。 |
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