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『天国の事情』 ファイル５・鬼ごっこの事情 ＜＜４ index＞＞ |
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５ すべてが終わって、スタジオから出ると。 興味津々の顔で待ってる室町さんの顔が見えた。 「お疲れさん。……約束どおり、事情を聞かせてもらうぞ？」 にっ。 室町さんは笑みを浮かべる。 オレと海はお互いに顔を見合わせると。 「へいへい」 オレは苦笑した。 ―――結局。 室町さんの話によると、ケガ人はナシ。 建物自体の損傷もなく、ダメになったのはちょっとした小物類がほとんどだったらしい。 とはいえ、さすがに一悶着したＡスタジオだけはちょっと被害がひどかったようだが。 そんなわけで。 紅葉と春花さんが謝りだおしたおかげで、あまり大事にはならずにすみそうである。 まあ、春花さん自身がテレビ日本の看板キャスターということもあるし。 警察のほうも、そんなわけで、厳重注意程度でとどめるそうだ。 今までの、局内で紅葉と召鬼とで起こした騒ぎについても含めて、ちゃんとすべての弁償もするらしいので、それで丸く収まった、というところであろう。 「お疲れさん」 事情聴取が一通り終わって、室町さんと一緒に警察署内の休憩所に現れた紅葉にオレは声をかける。 オレと海は紅葉の事情聴取が終わるまで、警察署内で待っていたのである。 ……まあ、イロイロと今回の事件について室町さんに突っ込まれて疲れ果ててた、ということもあるのだが。 「ねえ、ママと……鬼太郎(おにたろう)は？」 待合室を見渡して、開口一番に紅葉がたずねた。 「春花さんは紅葉より一足早く終わったから、外に出てマスコミの対応をしてるよ」 海が紅葉に答えた。 そう。 さすがにこの騒ぎ、マスコミが逃すはずがなかった。 ただ、召鬼やオレ達のようなオフレコの話が多いので、すべてを話すわけにはいかない。 どうしようかと思っていたが、春花さんがすっきりした笑顔で「まかせてください」というので、彼女に任せることにした。 さすがは実力派で売っている人気キャスターである。 さっきチラッと覗いたが、マスコミに上手いことこたえているようだ。 「……それで、鬼太郎は……？」 紅葉が不安そうな顔でオレ達を見る。 オレと海は、お互いの顔を見て少し苦笑いを浮かべた。 「今回の騒ぎの張本人だしな。アイツがもといたところの連中が連れ帰ったよ」 ふう。 オレはため息をついた。 「そっか……」 紅葉は寂しそうにつぶやいた。 召鬼……紅葉いわく"鬼太郎"は、地獄の閻魔庁に引き渡したのである。 本音をいえば、紅葉ときちんとお別れをさせてやりたかったのだが、閻魔庁は万年人手不足の庁。 そんなところの職員がどうにか時間を割いてやってきた、という事情はこっちもよくわかっていたため、仕方なしに紅葉が事情聴取中であるものの、引き渡してしまったのである。 「まあ、安心せい。鬼太郎が成長して、もう少し自分の力をコントロールできるようになれば、今回みたいにコントロール付かなくなることもなくなって、こっちに遊びに来ることができるようになるさ」 オレがそういうと。 紅葉は顔を輝かせた。 「本当!?」 「ああ」 オレは笑みを浮かべてうなずいた。 ……彼女にとって、本当に鬼太郎は親友だったのだろうな。 今までお土産だなんだかんだでオレ達が持たされていたものは全部鬼太郎のためのものだったそうだ。 鬼太郎は、ある日突然、紅葉の前にやってきたらしい。 まだ子供の鬼であるコイツは、人間の言葉はしゃべれなかったが、なんとなく意気投合。 それ以来ずっと紅葉のそばにいたらしい。 おそらく。 鬼太郎は何かの偶然で地上に来てしまったのだろう。 それで地獄に帰ることもできずに困ってたところで、大きな強い闇を持った紅葉と出会ってしまったようだ。 鬼はもともと闇に惹かれる性質がある。 それでずっと紅葉についていたのだろう。 ―――しかし。 それだけではないような気がする。 紅葉がテレビ局で騒ぎを起こしたあの日、オレ達の目の前で紅葉が消えた時に一瞬見えた、鬼太郎の顔。 寂しそうな顔。 今から思えば、紅葉を止めてくれ、そうオレ達に訴えていたのかもしれない。 自分の"力"の暴走が原因で、紅葉が取り返しのつかないことをしでかさないように、止めてほしいと思っていたのかもしれない。 もしかしたら。 純粋に紅葉に惹かれたのかもしれないな、鬼太郎は。 鬼の子と人間の子との友情、か。 「しかし、だからといって、あの鬼が遊びに来ても２度とこんなことは起こさないでね。お嬢ちゃん」 室町さんはそういって苦笑いを浮かべた。 「失礼ねっ。そんなことはもうしませんっ」 ぷくう。 紅葉は頬をふくらませた。 「……でも、鬼太郎、わたしのせいで罰受けたりするのかなあ」 紅葉は心配そうにいう。 「んー、まあな。でも、お前さんと同じで怒られるだけさ。罪には問われんよ」 確かに鬼太郎は今回の騒ぎについての何らかの処罰を閻魔庁で受けることになる。 とはいえ。 彼はまだまだ子供な上、誰かを殺したわけでもない。 こちらも厳重注意ですみそうということだ。 「そっか。よかったあ」 ほっとした顔の紅葉。 紅葉は鬼太郎のことになると、年相応の子供っぽい顔をする。 今回の騒動、周りの連中には確かにいい迷惑ではあったが、紅葉にとってはいいことだったのかもしれないな。 「……それにしても」 じっ。 紅葉はじっとオレと海の顔を見る。 「なっ、なんだよ」 「あなた達って一体何者なの？」 紅葉はオレと海の顔をじっと見たままたずねた。 「は？」 オレは思わず聞き返した。 「だって、はじめはただのテレビ局のバイトかと思ってたけど……鬼太郎とまともにやりあえる、不思議な力は使えるし、鬼太郎に関しての知識もある。しかも警察にもそれなりに顔がきいてるみたいだし。タダモノじゃないわよね」 「タダモノじゃない、といわれてもなあ。こういうのが専門、としか答えられないよなあ」 オレは苦笑した。 海も室町さんも複雑な笑みを浮かべている。 そんなオレ達の様子を見て、紅葉はイマイチ納得のいかない顔をしていたが。 「……まっ、いいわ。なんだかんだいっても、あなた達にはお世話になったし。それに、ね」 そういって紅葉は、じっと海を見つめた。 「ん……？どうしたの？」 海が聞き返すと、紅葉はふふっと笑う。 そして。 「海さんって、真希とつきあってるの？」 ―――一瞬。 その場にいる３人は沈黙。 そして。 「はあ!?」 「なんだそりゃ!?」 「わっははははっ！」 思わず聞き返したのは、海とオレ。 爆笑したのは、室町さんである。 「ちょっ、ちょっと待って。なんで俺が真希と付き合ってるとかなんとかって……っ」 海が動揺しながら紅葉にたずねる。 「好きになったわ。あなたのこと」 きっぱりという、紅葉。 「……は？」 目がテン、とはまさにこのことをいうのだろう。 海は呆然と紅葉を見ていた。 「で、どうなの？」 「どっ、どうっていわれても、なあ？」 海が戸惑いながらオレのほうを見る。 「あっ、ああ。オレら、仕事上のパートナーってだけだし……」 オレがそう答えると。 「それはどうかな？いつもいつもパートナーが長続きしなかった真希が、かれこれ４ヵ月も組んでる相手だもんな。案外、なあ？」 室町さんがニヤニヤしていった。 「おいっ、どういうイミだよ!?」 「室町さん!?」 オレと海は室町さんのほうを見る。 「さあてね。おれはいいかげん仕事に戻らないと。それじゃなあ」 室町さんはいいたいことだけいうと、とっとと行ってしまった。 「いい逃げかよっ」 オレは室町さんが去っていったほうをにらんで。 ふう。 ため息をつく。 すると紅葉はそんなオレを見て一言。 「負けないからねっ」 挑戦的な瞳でオレを見る、紅葉。 ………………。 オレは、ただただ。 まっすぐにオレを見つめる紅葉と、何をいったらいいのかわからなくなって固まってる海の顔を交互に見比べることしかできなかった。 ったくう。 どーしてこういうことになるんだよ!? -ＥＮＤ- |
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