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『天国の事情』 ファイル５・鬼ごっこの事情 ２＞＞ |
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１ 今日も今日とて、霊界図書館。 オレはいつものごとくここで、睡眠をむさぼっていた。 しかし―――だ。 バサバサバサッ！ 「どわッ!?」 突然。 大量の本がオレの上に降ってきたのである。 「あっちゃー」 「大丈夫ですかッ!?真希さん！」 あわてたような倶生(くしょ)ちゃんズの声。 「ったくぅ。なんだよぉ……」 オレは自分の顔にかぶさってしまった本をはらいのけると。 「倶生ちゃん兄の仕業かぁ？」 オレはそういって、ゆっくりと起き上がった。 すると。 「……真希さん。また間違ってますよ」 なかばあきれ顔の倶生ちゃんズ。 「え？」 オレは２人の顔を見つめた。 「私は"妹"で、兄はこっち！いい加減、区別してくださいっ」 きっ。 倶生ちゃん妹は隣の倶生ちゃん兄を指差して、オレをにらんだ。 「あっ……あはっ、あはあはっ」 オレは苦笑いを浮かべた。 「まったく、あなたってヒトは……」 ふう。 倶生ちゃん兄はため息をついた。 「……それにしても、随分たくさんあるよなぁ。今月の新刊か？」 オレは下に落ちた本の１つを拾い上げる。 「ええ。今月入荷分です」 倶生ちゃん妹も下に散らばった本を拾い上げながら答えた。 「どっかの誰かさんと違って、私たちは忙しいんですよ」 倶生ちゃん兄も本を拾い上げながら、軽くオレをにらんだ。 「………」 オレは倶生ちゃん兄から視線をそらし、手に持っていた本をパラパラめくった。 「ふーん。しつけ論だな、こりゃ……」 オレは本を眺めてつぶやく。 「真希さん。何やってるんですか？ヒマだったら、拾うの、手伝ってくださいよ」 倶生ちゃん兄がオレに向かっていう。 オレはそんな倶生ちゃん兄を無視して。 「こういう本を書くヤツって、概して、自分の家庭じゃ、実践できてないんだよな」 パタンッ。 オレは本を閉じた。 「何いってるんですか」 倶生ちゃん妹があきれ半分でいう。 「真希さんにいわれちゃ、おしまいですよ」 倶生ちゃん兄がため息まじりにいった。 「……ひでえぞ、倶生ちゃん兄……」 ―――と、そのとき。 「おいっ、真希っ!!」 そんな聞きなれた声がオレの耳に飛び込んできた。 海(かい)である。 「……おや？」 海がオレの顔を見て不思議そうな顔をする。 「なんだよ」 「めずらしー。真希が起きてるなんて」 「な……っ」 オレは思わず言葉につまってしまった。 そばでは倶生ちゃんズが笑いをこらえているのが見える。 ち……っ、ちくしょーっ。 本当のことだから、何もいい返せねーっ。 「まっ、それはともかく」 海はそういうと。 ガシッ。 オレの襟首をつかんで。 「真希、仕事だ。行くぞ」 いつものごとくズルズルとオレを引っ張っていった。 もー少し、優しくしてくんないかな……。 「テレビ日本で不審な事故が多発している」 バサッ。 課長はオレ達の前に資料を置いた。 「不審な事故……？」 海が資料をめくりながら聞き返す。 「ああ」 課長はゆっくりとうなずいた。 そして続ける。 「突然セットが壊れたり、照明の明かりが消えたりするんだ。小さな事故も合わせると、ここ１ヵ月の間に起きた事故の数は、優に30件を超える」 「ふーん」 海は資料を見ながらうなずいた。 「それらの事故は、明らかに人間の仕業じゃぁない、と」 オレは手を頭の後ろで組んだままいった。 「そういうことだ」 課長はうなずいた。 「そこでお前達には、テレビ日本に潜入して、犯人を捕まえてほしい」 課長はオレ達を見つめていった。 「しかし、課長。潜入って、どうやって……？」 オレがそうたずねると。 ニヤッ。 課長は笑みを浮かべた。 な……っ、なんだかイヤな予感がする……。 「おら、天原！何してるッ！」 ―――ここはテレビ日本局内・Ａスタジオ。 オレと海は課長の命令でテレビ日本に潜入したワケだけど……。 「ったくぅ。なぁんでこんなトコ来てまでコキ使われなきゃなんねぇんだよ〜〜〜」 ふう。 オレはため息をついた。 そう。 オレ達は美術係のバイトとしてテレビ日本に入りこんだのである。 おかげで容赦なくコキ使われて、たまったもんじゃない。 「そんなこといったって仕方ないだろ？仕事なんだからさ」 海がベニヤ板を切りながらあきれ半分でいう。 「そんなこといったってよぉ……」 オレがそう不満をいいかけたとき。 「天原っ！ごちゃごちゃいってないで、仕事しろッ！」 バイトの上司、高山勝平(かっぺい)氏の怒声。 「ふはーい」 オレは渋々返事をした。 トンテンカン、トンテンカン。 オレは釘を打ってゆく。 ―――ったく。 総務もひでえよなぁ。 何もこんなキツイ仕事のバイトとして登録することもねーじゃねーかぁ。 ほかに何かなかったのかね？ コレのバイト料、きっと総務に取られちまうんだろうなぁ。 やってらんねぇぜ。 ったくぅ〜〜〜。 ―――と、そのとき、だった。 『……みんな、大っキライッ!!』 え……？ かすかに。 そんな女の子の声が聞こえて。 スゥーッ。 照明が下に落ちてゆくのが見えた。 「危ないッ!!」 オレはとっさにスタジオ中央に立っていた女性のところへ駆け出すと。 バッ!! 彼女を抱えて脇に飛び込んだ。 その瞬間。 ガッシャーンッ!! Ａスタジオ中に派手な音が響く。 振り返ると。 彼女が元いた位置で照明が落ちてメチャメチャに壊れているのがわかった。 フウーッ。 オレはため息をついて立ち上がった。 「さっ、どうぞ」 オレは女性に手を差し伸べる。 女性はオレの手を取って立ち上がると。 「あの……ありがとうございました」 女性は頭を下げた。 彼女は今日、ここＡスタジオで収録予定の報道番組の司会者、小川春菜であった。 テレビ日本の有名女性キャスターである。 「いえ。ケガがなくて何よりですよ」 にっ。 オレは笑みを浮かべた。 その途端。 パチパチパチ。 今まで固まったままで様子を見ていたまわりの人達の拍手が沸き起こった。 ……が、オレはそれを無視して。 「ちょっとすんません」 そういって出口のほうへ歩き出した。 そして。 「海、行くぞ」 離れたところで様子を見ていた海に声をかけた。 「行くって、どこへ……？」 「犯人を追っかける」 オレはそういって小走りに歩き始めた。 「犯人って……？」 海がオレの後を慌てて追いかけながらいった。 「かすかに妖気が残ってる。追うぞ」 「ＯＫ！」 オレ達はＡスタジオを後にした。 「ちっ、これが限界か」 フゥーッ。 オレはため息をついて廊下で立ち止まる。 「妖気、わからなくなったのか？」 「ああ。残念ながらね」 オレは肩をすくめた。 と、そのとき。 「ん……？」 オレはふと、下のほうから視線を感じて。 視線のほうを向いた。 するとそこには、10歳くらいの女の子がじっとオレを見ていたのだった。 「何だ……？」 オレは女の子に疑問の視線を投げかける。 ―――あれ？ この子……。 「ねぇ、おにーさん」 女の子はオレにいった。 「おっ、"おにーさん"……？」 「クックックッ……」 隣で海が笑いをこらえていた。 くぬやろ……。 「あの……オレ、女なんだけど」 オレは苦笑いを浮かべていう。 「うそでしょ？どう見ても男なのに」 「あのねー……」 「ふっはっは……っ」 海はこらえきれずについに吹き出した。 「おいっ！」 オレは海にどなりつけると。 「そっ、それはともかく、何の用かな？」 オレは気を取り直してたずねた。 「あなたのその紫の瞳、珍しいなと思って」 女の子はじっとオレの瞳を見つめていった。 「ああ、コレね」 「真希……」 海が心配そうな顔をする。 オレは海にふっと笑みを向けた。 「ねぇ、それ、カラー・コンタクト？」 女の子は興味津々にたずねる。 「さあてね、どうかな」 ニヤッ。 オレは笑みを返した。 「ふうん、そっ。まあいっか」 そういって、女の子はまじまじとオレの瞳を見つめた。 そして。 「気に入ったわ」 「へっ？」 オレは思わず聞き返す。 「あなた、あたしと遊んでよ」 そういって女の子はオレの腕をつかんだ。 「はっ!?」 「へっ!?」 オレと海は女の子を目を丸くして見つめる。 なっ、何だ、この子……。 「あのー、オレら、仕事中なんスけど」 「そんなのあたしにはカンケーないもん」 女の子は意にも介さないといったふうに答えた。 まっ、まいったな……。 ―――と、そのとき。 「こら、天原に森村っ。そこで何してる？」 そういって、高山氏がやって来たのである。 「あっ、高山さん」 「助かったっ」 オレと海は高山氏のほうを向いた。 「おや？紅葉(もみじ)ちゃん」 高山氏がオレの腕にひっついてる女の子を見ていった。 「知り合いですか？」 海が高山氏にたずねた。 「小川春花の娘さ」 高山氏がそういうと。 「………」 「ん……？」 ギュ……ッ。 紅葉はオレの腕をつかむ力を強めた。 「さっ、紅葉ちゃん。彼らには仕事があるんだ。離してやってくれないか？」 高山氏がなだめるようにいう。 「えーっ」 紅葉はイヤそうな顔をした。 「頼むよ、ねっ？このとーり」 パンッ。 高山氏は手をたたいて頭を下げた。 「……仕方ないわね」 紅葉は偉そうにそういうと、オレから手を離した。 「そのかわり！」 ビシッ。 紅葉はオレを指差して。 「仕事が終わったら、あたしと遊びなさい。わかったわね？」 「……わかったよ」 フゥ。 オレはため息をついてうなずいた。 「よろしい」 紅葉は偉そうに腕を組んでいった。 「それじゃ、５時に正面玄関よ。遅刻厳禁だからねッ」 「了解」 オレはうなずく。 「それじゃ、天原、森村。仕事に戻るぞ」 高山氏はオレ達をうながした。 「はい」 「はーい」 オレ達は高山氏と共にＡスタジオのほうへ歩き出した。 「とんでもないヤツにつかまったな」 高山氏がオレにいう。 「え？」 「小川紅葉さ」 「はぁ」 オレはあいまいにうなずいた。 「あの子、マジで超ワガママでな。みんなほとほと困ってんだよな」 高山氏は腕組みした。 「へー」 海はうなずく。 「小川春花の娘じゃなければ、ぶっ飛ばしてるところさ」 「それはわかるな」 オレは苦笑いを浮かべた。 「ただ、な」 ふう。 高山氏はため息をつく。 「まあ、なんだかんだで、春花さんがきちんと謝って、これからもよろしく、とかいわれてしまうとなあ。ついつい甘い顔をしちゃうんだよな」 高山氏は苦笑いした。 「そういうもんなんですかねえ」 オレは高山氏の苦笑いを見ながらいう。 「たぶん、あれは春花さんなりの配慮なんだろうな、と思うとな。紅葉がいくら好き勝手をやっても、紅葉が責められることがないようにって。いつもかまってあげることができない紅葉のためのさ。その気持ちは、おれにも子供がいるから、わからんでもない」 高山氏はそういうと、オレのほうを見て。 「まっ、頑張れや」 ポンッ。 オレの背中を軽くたたいた。 「はぁ」 オレは苦笑いを浮かべたままうなずいた。 「あーあっ、つっかれたーッ！」 んんーっ。 オレは思いっきりのびをする。 「ったくぅ。なぁんで本来の仕事と別のコト、せにゃいかんのだ」 「仕方ないだろ？これも仕事のうちだよ」 海はため息まじりにいった。 「まっ、おまえの場合は子守りもだもんな。日頃のツケかな」 ニヤッ。 海は笑みを浮かべた。 「あのな〜〜〜」 そして、フウ。 ため息１つ。 「……まっ、いっか」 オレは手を頭の後ろで組んだ。 「え……っ？お前、どうしたんだよ？」 オレの意外な反応に海は怪訝そうにたずねる。 「―――あの子から、妖気を感じたんだよな」 「妖気を……!?」 海は驚いた顔をした。 「一瞬だったしな。気のせいかもしれんがな」 「まさか、なあ……」 海は半信半疑そうにつぶやいた。 「……そういうワケで、海」 ポンッ。 オレは海の肩に手を置いた。 「なんだよ？」 海は怪訝そうな顔をする。 「紅葉(ガキ)のお守り、つき合ってもらうぞ」 「えッ!?」 「これは立派な"仕事"、だよな？」 ニヤッ。 オレは笑みを浮かべた。 「〜〜〜わかったよ」 海は渋々うなずいた。 「さて。お姫サマのお待ちだ」 オレはあごで正面玄関のほうを指した。 そこには小さな影が１つ。 その影がオレ達に向かっていった。 「遅いじゃない！」 ―――あーあ。 なんか、めんどーなことになりそうだ。 |
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仔猫の遊び場
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