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『天国の事情』 ファイル６・刑事の事情 ＜＜４ index＞＞ |
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５ 「こうして……しっかりと由紀子さんの墓の前に立つのは初めてかもしれないな」 澄んだ秋晴れの下。 由紀子の墓の前でオレ達はさわやかな秋風に吹かれていた。 そんな中、室町さんは目の前の墓を見つめ、苦笑する。 「そうか……」 宮部も由紀子の墓を見つめて静かにこたえた。 ―――あれから。 ほどなくして、宮部は目を覚ました。 ただでさえ、霊体に体を貸すことは、かなりの体力を消耗する。 その上、あれだけのことをしたのだ。 本来ならば、丸一日目を覚まさなくても何の不思議はない。 それなのにすぐに目を覚ましたのは、さすが、元警官、といったところであろうか。 目を覚ました宮部は、寂しげな、そしてどこかほっとしたような顔をして一言。 『……還ったんだな』 その一言と表情で、宮部がすべてを悟っていることがわかった。 室町さんがうなずくと、彼はさらに一言。 『明日、由紀子のところへ、一緒に来い』 そういった。 その宮部の横顔は、複雑な顔なものであった。 そして今日。 オレ達も一緒に宮部由紀子の墓へとやってきていた。 ……もっとも。 大牙はこの墓に来てお参りだけを済ますと、『話があるから』と、海を連れて、早々にどこかへ行ってしまった。 何の話をするのかは、大体の想像はつく。 多少気になりはしたが、２人で話す機会は今までなかった。 この機会に話すのもいいかもしれない。 オレはそう思って、２人が消えた後も室町さん達と一緒に由紀子の墓の前にいたのであった。 「しかし、よく、おれをここに連れてくる気になりましたね？」 室町さんが宮部にたずねる。 宮部は墓を見つめたまま、ふっと笑みを浮かべた。 「きのうの夜……由紀子がどんな気持ちでいたのか、そしてどんな気持ちで還ったのかは、おれにも流れてきてたからな。だからだよ」 「そうですか」 室町さんも笑みを浮かべた。 「……由紀子は、向こうでどうなるんだ？」 宮部がオレにたずねる。 「まあ、誰かを殺したわけじゃないし。多少カルマ払いの期間が長くなるだけさ。またいつの日か、転生して、地上に還ってこれるよ」 「そうか……」 宮部は少しほっとしたような顔をした。 「……で、おれはどうなるんだ？」 宮部は自嘲的な笑みを浮かべていう。 「どうなるってもなあ」 ふう。 オレはため息をついた。 「実際、おたくがしたことといえば、由紀子に体を貸したくらいだろ？オレ達がおたくにすることはないさ」 オレがそういうと。 「……いや、１つだけ、ある」 室町さんが宮部を見ていう。 「おれを……殴ってくれませんか？」 室町さんは笑みを浮かべた。 「………」 そんな室町さんを宮部は黙って見つめて。 「……わかった」 宮部は静かにうなずいた。 そして。 「歯、食いしばれよ」 一言、そういうと。 バキッ！ 宮部は思いっきり室町さんを殴った。 「……ありがとう、宮部さん」 殴られた頬をおさえて、でも笑顔でいう室町さん。 「………」 宮部は何も答えなかった。 「大丈夫か？」 オレは室町さんにたずねる。 「ああ。これっくらい、宮部さんが抱えてる痛みに比べれば、ね」 室町さんは苦笑した。 そんな室町さんを宮部は見つめ、ため息をついた。 「変わらんな、お前は」 ぽつんという、宮部。 「そうですか？」 「……いや、いい顔するようになった、な」 ふっ。 宮部は笑みを浮かべる。 「信じられる仲間ができたから、か」 宮部はオレを見た。 「……そうですね」 室町さんはうなずく。 「おれは、なれなかったがな」 宮部は自嘲的に笑った。 「そんなこと……ないですよ」 室町さんは苦笑した。 「信じてましたよ。誰よりも。でも、信じ抜く強さがなかったんです。あの頃は。だから……あなた達を傷つけ、自分自身を苦しめた」 室町さんは由紀子の墓を見つめる。 そして再び、宮部のほうを見た。 「だから決めたんです。次に信頼できる人物ができたら、最後まで信じようって」 室町さんはそういって、ちらっとオレを見ると、笑みを浮かべた。 「そうか……」 宮部はそれ以上は何もいわず、ただ穏やかな笑みを浮かべた。 『信頼できる人物ができたら、最後まで信じる』、か。 オレはふと、海のことを思い出した。 思わず笑みを浮かべる。 「わりぃ。オレ、ちょっと先に失礼するわ」 オレは室町さんにいう。 「わかった」 室町さんはオレが何を考えていたのかがわかったらしく、笑みを浮かべた。 「それじゃ」 オレは歩き出した。 ―――ほどなくして。 墓地のすぐ近くの公園に、大牙と海の姿を見つけた。 まだ何やら話をしているようだ。 オレは思わず物陰に隠れた。 「……だから、俺は、真希のパートナーをやめる気はない」 海は大牙を見つめ、きっぱりという。 「………」 大牙は何もいわずに海を見つめていたが、やがてふっと表情をゆるめた。 そして。 「……ったく。わかってたって。パートナーをやめさせることがムリなことぐらい」 ふう。 大牙はため息をついた。 「くやしいけど、おれにはムリだったからな。真希にあんな穏やかな笑顔をさせることは」 大牙は自嘲的に笑った。 「え……？」 海は大牙に聞き返す。 「お前のことを話す真希が、あんな穏やかな笑顔をするなんて、な。初めて見たよ。真希のあんな顔」 「………」 海は驚いた顔で大牙を見つめていた。 「そもそもな。おれはお前がいつも真希を蹴飛ばして起こしてるって倶生神(くしょうじん)達に聞いて驚いたぞ。付き合いの長い倶生神達ならともかく、おれがやろうとしたら、必ずその前に気づかれて防がれちまう。……つまり、お前にはそれだけ気を許してるってわけさ。……そうだろう？」 大牙は突然オレのほうに話を振った。 「隠れてたの、バレてたか」 ニヤッ。 オレは笑みを浮かべ、物陰から出て、２人のほうへといった。 「トーゼン」 ニヤッ。 大牙も笑みを返した。 「……まっ、そういうワケだからさ」 ポンッ。 大牙は海の肩を叩く。 「仕方ないから、認めてやるよ」 大牙は苦笑いを浮かべた。 そして。 「……じゃあな」 大牙はそういって歩き出す。 去りぎわ。 ニヤッ。 オレに笑みを向けると、公園から出ていった。 「真希……」 海が複雑な表情でオレを見つめる。 「後悔、してないか？俺をパートナーにしたこと」 海がためらいがちにいった。 「……ったく」 ふっ。 オレは笑みを浮かべて。 「バカいってんじゃねーよ」 コツン。 オレは軽く海の頭を叩いた。 そして。 「よろしく頼むぜ。パートナー」 ニッ。 オレは笑って。 スッ。 ５ヵ月前と同じように手を差し出した。 そんなオレに海は一瞬、驚いた顔をしていたが。 「……ああ」 海はゆっくりと笑顔になる。 そして。 「こちらこそ、よろしく頼む」 オレ達は５ヵ月前と同じように、握手を交わした。 ―――後日談。 「起きろってのッ！」 ドカッ！ 「うえっ!?」 今日も今日とて霊界図書館。 いつものごとくオレは海に蹴り起こされる。 「……もーちっと、やさしく起こしてくれないかなあ」 「寝てるお前が悪い！」 いつものように、繰り返されるやりとり。 しかし。 最後に海が小さな声で一言。 「……まあ、俺に気を許してくれてるのはうれしいが、な」 「―――」 オレは思わず、笑みを浮かべた。 そんなこんなで。 オレ達の日常はまだまだ続きそうである。 -ＥＮＤ- |
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