|
『天国の事情』 ファイル３・親子の事情 ＜＜２ ４＞＞ |
|
３ 「何寝てんだよッ!!」 ドカッ！ ソファが激しく揺れる。 「どわッ!?」 ドタガッターンッ！ 「い……っ、いたたたた……」 オレは強打した頭をさすった。 「バッキャロー！いってぇじゃねぇかぁっ！」 キッ。 オレは海をにらむ。 「何寝ぼけてんだよッ。ノン気に昼寝なんかしやがって！廉のコトはどうした!?」 「………」 ポリポリ。 オレは頬を軽くかいた。 ここは毎度おなじみ、霊界図書館。 明けて次の日。 オレは何事もなかったかのように、いつものごとく昼寝をしていたのであった。 「ったく。お前は何考えてんだよっ」 海はため息をついて腕を組んだ。 「何って……別になぁんも」 オレはそういって、再びソファに寝そべった。 「おい、コラ、真希ッ!!」 「ま……っ、まぁ、まぁ。海さん」 今までオレ達の様子を見ていた倶生(くしょ)ちゃんズが海をあわてて制する。 「ジョ……っ、ジョーダン、冗談だよぉっ」 はははは。 オレは苦笑いを浮かべて起き上がった。 「―――戻りたくないんだとさ。廉のヤツ」 「何だって!?」 海と倶生ちゃんズが驚いてオレを見る。 「でも……まっ、大丈夫。『果報は寝て待て』というしな」 にっ。 オレは笑った。 「どういうイミだよ？」 「まぁ、いーから。……ほーら、来た」 「え？」 海が不思議そうな顔をした―――その時。 「真希さん。おれ、戻るよ」 そんな声がして。 霊界図書館に廉の姿が現れた。 「廉……？」 海が廉のほうを見る。 「ＥＳＰ研究所(あそこ)には、おれと同じように苦しんでる仲間がたくさんいる。おればっかりが逃げてる場合じゃない。……それに……」 「それに？」 「それに―――母さんの本当の気持ちを知りたいんだ」 「………」 オレは何もいわずに廉の顔を見つめた。 ―――いいカオしてる。 「そういうことなら、この天原真希にまっかせなさぁいっ」 にっ。 オレは廉に笑みを向けた。 「ここがＥＳＰ研究所……？」 海が目の前の建物を見ていう。 夜空に浮かび上がる建物は、一見すると、普通の倉庫に見えた。 「正確には、この地下さ。上物(うわもの)は本当に稲田総合産業の倉庫なんだ」 「へー」 海はまじまじと倉庫を見つめた。 ―――あれから。 オレ達は夜になるのを待って、行動を開始した。 もちろん、廉も一緒である。 オレ達は、物陰から様子をうかがっていた。 「………」 何もいわずにじっと倉庫を見つめる廉。 その横顔は複雑であった。 「―――さて。あのガードマンをなんとかせにゃいかんな」 オレはそういってため息をつく。 ドアの前には男が２人、立っていた。 「やっぱりおれ、肉体(からだ)に戻った方がいいんじゃない？」 廉がオレにいう。 「うんにゃ。相手だって、お前が幽体離脱してるのはわかってるハズ。おそらく肉体は向こうにおさえられてるさ。戻ったら最後、自由に動けなくなるぞ」 「そうか」 「しかしな……」 「ん？どうした？」 海がオレのほうを向く。 「あっ、いや、なんでもない……」 オレは海にそう答えて、倉庫を見つめた。 ―――しかし、気になる。 廉は最初、何故オレを襲ったんだ……？ そのことについては、廉にも記憶がなかった。 一瞬見せた、あの殺気立った瞳。 ゾッとするくらい冷たかった。 まるで何かに操られてるような、そんなカンジだった。 なんか、ひっかかるよな……。 「真希……？」 黙りこくってしまったオレにけげんそうにたずねる海。 オレはちらっと海を見ると、ふっと笑った。 「さぁて、ガードマンとちょっくら遊んでくるか」 「へっ？」 海と廉がオレを見る。 「まぁ、２人はそこでおとなしく待ってなさい」 にっ。 オレは笑みを浮かべると、スタスタと歩き出した。 「いやー、どおもー」 オレは倉庫のほうへ歩きながら、ガードマンに向かって軽く手をあげた。 「な……なんだ？」 とまどった顔でガードマン２人がオレを見る。 「何者だ？あんたは」 ガードマンの１人が警戒しながらオレにたずねた。 オレはにっと笑って。 「ちょっとオレと遊びません？」 「はっ？」 「格闘技ごっこで！」 オレはそういうと。 ドッ！ ドガッ!! すばやくガードマン２人にひざ蹴りと後ろ蹴りをくらわした。 「ぐ……」 「う……っ」 ドサッ！ ガードマンは２人とも気絶して倒れてしまった。 「ありゃりゃ。"遊ぶ"どころじゃなかったな」 オレは倒れた２人をながめていう。 そして。 「海、廉。いいよ、おいで」 オレは２人に向かって手招きした。 海と廉はオレのほうへとやってくる。 「さすがは真希」 「すごいな」 「まっ、こう見えても、いちおープロですから」 にっ。 オレは笑った。 「さぁてと、そんじゃ敵陣に乗り込みますか」 ガチャッ。 オレは倉庫の中へ入るドアを開けた。 「………」 倉庫の中は薄暗く、雑然と荷物が置かれていた。 一見すると、普通の倉庫と何ら変わりない。 しかしオレは、中に入るやいなや、立ち止まってあたりを見回した。 「真希？どうした？」 海がオレにたずねる。 「……どうやら、オレ達、お出迎えされたようだ」 「へっ？」 「確かに」 廉がうなずいた。 確かに一見すると、誰もいないようである。 しかし、何人もの人がひそんでいる気配がしていた。 「ざっと20人、てとこか」 オレはあたりを警戒しながらつぶやく。 「どうするんだよ？」 海がオレにたずねた。 「どうするって……いうまでもないっしょ？」 「そうだな」 海はうなずいた。 廉も無言でうなずく。 「そんじゃ、ま、いきますか」 ダッ！ オレ達は飛び出した。 すると。 バラバラバラッ。 銃を持ったヤツらが姿を現した。 「風刃符(ふうじんふ)！」 ババッ！ 「うおっ！」 「うわッ」 銃に呪符(フダ)が当たって、男が吹っ飛んでゆく。 オレは銃弾をよけながら、次々に男達を倒していった。 ―――その横で。 「火焔符(かえんふ)、氷塊符(ひょうかいふ)、天雷符ッ!!」 ―――え。 ドカドカドゴォッ!! 「ぐオッ!!」 「ぐはァッ!!」 「ぎぇーッ!!」 男達の悲鳴にも近い声が響いて。 「どわッ!!」 上から荷物が降ってきて。 オレはとっさに横に飛んだ。 「このどバカーッ！」 オレは海に向かって怒鳴る。 「やたらめったら呪符投げるなッ！オレまで巻き込まれそうになったじゃねーか!!」 「あ……わりィ、わりィ」 海は苦笑いを浮かべた。 「ったくぅ……と、おっとォッ！」 ヒュッ！ オレは殺気を感じて呪符を投げる。 「うオッ！」 男が１人、ハデに吹っ飛んだ。 「コイツで終わりかな？」 オレはそういってあたりを見回す。 向こうのほうでは、廉もすべてかたづけ終わっていた。 「ごくろーさん、廉」 オレは廉にいう。 廉はオレ達のほうに歩いてきた。 「どうやら、これで全部らしいな」 「ああ」 オレはうなずいた。 「それにしても、すげーな、廉。１人で６、７人倒してただろ？」 海が感心していう。 「んー、まぁ、な」 廉はフクザツそうな顔でうなずいた。 「鍛えられたからな。ＥＳＰ研究所で」 「あ……」 海はバツの悪そうな顔をした。 「……まっ、それよか早く行こうぜ。どうやらオレ達、熱烈大歓迎みたいだし」 「えっ？」 フンッ。 オレは鼻で笑うと。 ヒュヒュッ！ 風刃符を左右に投げた。 ガッシャーンッ！ 「え……!?」 海と廉が音のしたほうを見る。 「監視カメラさ。……ったく。高みの見物しやがって」 「………」 ２人はカメラのレンズの破片を見つめた。 「さっ、そんじゃ、行くか」 オレは近くのドアを開ける。 そこには、地下への階段があった。 「あっ、ああ」 オレ達は階段を降りていった。 ―――それにしても、な。 連中、なんで銃なんか持ってたんだ……？ 確かに廉が来ることは、予想できただろう。 それに対して警戒してたハズだ。 それじゃ、なんで銃なんだ？ 廉は今、幽体だ。 廉が物にさわることはできても、逆は不可能だ。 霊力を持つ者じゃなきゃ、廉にさわることはできない。 廉には銃はまったく意味がないのだ。 いくらなんでも、それくらいわかってるハズ。 それじゃ、なぜ……？ 監視カメラ――― 銃――― そして……催眠状態でオレを襲った廉――― もしかして、これは――― 「このドアの向こうが、ＥＳＰ研究所……？」 「らしいな」 「………」 階段を降りると。 オレ達は鉄の重たそうなドアに突き当たった。 オレはゆっくりとノブに手をかける。 そして。 ―――ガチャッ。 ドアは幸い、カギはかかっていなかった。 オレは警戒しながらドアを開けた。 「―――」 中はけっこー広い。 そして、様々な機械に囲まれていた。 しかし、人影はどこにも見当たらなかった。 ―――はめられたかな？ と、その時。 「ようこそ！我がＥＳＰ研究所へ!!」 「―――！」 突然部屋中に響く声。 オレ達は反射的に上を見上げた。 「影山(かげやま)博士ッ！」 廉が叫ぶ。 そこには、頭のハゲた、白衣を着たオヤジとその助手らしき男が１人、 ガラスの向こうからオレ達を見下ろしていた。 「待っていたよ。君達が来るのをな」 ニヤリ。 影山は不気味な笑みを浮かべた。 「そーだろーなぁ。階上(うえ)の立派なお出迎えに監視カメラ、ごてーねーにわざとらしくここのカギは開けとくわ……今回の件(こと)、すべてあんたが仕組んだんだろ？廉のことも含めて、な」 「え……!?」 海と廉が驚いてオレを見る。 フンッ。 オレは腕を組んで影山をにらんだ。 「廉にオレを襲うよう暗示をかけた上で、廉に出生の秘密をバラし、あの世に行くよう仕向けたのは、あんただろ？」 「な……んだって!?」 ばっ。 廉は影山を見上げた。 「……さすが、よくわかってるじゃないか。ダーク・エンジェルよ」 影山は顔色１つ変えずにいった。 「え……っ!?真希さんが、あの"ダーク・エンジェル"!?」 廉が驚いた顔でいう。 「そう。紫の瞳の、闇世界ナンバー１のバスター。どうやら伊達ではないらしい。クックックッ」 ギラリ。 不気味に笑う影山の瞳が冷たく光った。 「そのオレをわざわざこんなところに呼び出して、一体何の用だ？ハゲ山博士」 「なっ……！」 ニヤッ。 オレは笑う。 その場にいた者は皆、思わず影山の頭を見た。 「〜〜〜わっ、私は影山だ！ハゲ山などではないッ！」 顔を赤くして、かなり動揺しながらいう影山。 「あーら、そうでした？」 オレは笑みを浮かべたままいった。 「フ……フンッ。生意気な口が叩けるのも今のうちだ。君は我々の"商品"の被験者になってもらうのだからな！」 「何……？」 「フフフフフ……」 影山は不気味な笑みを浮かべる。 そして。 ウィーン。 オレ達の目の前のドアが開いた。 「な―――……ッ！」 そこには。 無表情な顔の子供達がいたのである。 15、６歳の子もいれば、どう見ても10歳くらいの子もいる。 合計５人。 何もいわずにオレ達を見つめている。 しかしその瞳には、人間的感情はうかがえなかった。 「みんな……ッ」 廉が驚いた顔で彼らを見つめる。 しかし、彼らの目には廉の姿は映っていないようであった。 「……なるほど。オレ達を使ってデモンストレーションしようってワケだ」 フウ。 オレはため息をついた。 「ダーク・エンジェルを倒したとなれば、"商品"をそれだけ高く売れるからな」 ニヤリ。 影山は笑みを浮かべた。 「"商品"って……彼らは人間だろ!?何考えてんだよッ!!」 キッ。 海は影山をにらむ。 「フフフフフ……」 しかし、影山は顔色１つ変えなかった。 「みんなっ、おれだよ！廉だよッ！」 廉は子供達に必死に声をかける。 「―――」 「わからないのか!?おれだよッ!!」 「ムダさ」 オレは廉を制した。 「真希さん!?」 「コイツらは、お前がオレを襲った時と同じ、暗示をかけられてる」 「―――ッ！」 「その通り。彼らには君達はただの"標的"にしか見えてない。クックックッ……」 影山は不気味に笑った。 「真希……」 海が困惑の表情を浮かべてオレを見る。 「……ったく。しょうがねぇなぁ」 フウ。 オレはため息をついた。 「海、廉。結界張って後ろにさがってろ」 「どうするつもりだ!?彼らを傷つけるわけには……ッ！」 「わかってるって。いいからさがってろ」 オレは海にそういうと、一歩前に踏み出した。 「さあ、ショーを始めようか」 影山の声が研究所に不気味に響いた。 |
|
仔猫の遊び場
＜＜２
４＞＞
Copyright (C) 2000-2004 Kasabake |