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『天国の事情』 ファイル４・霊能探偵の事情 ＜＜３ ５＞＞ |
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４ 「………」 ―――妖気を感じる。 ついに来た、な。 オレは布団の中で身構えた。 そして。 バッ！ 襲いかかってくる気配。 その瞬間。 バサッ！ オレは気配の主に布団を投げつけた。 「そこまでだ」 「な……っ！」 ドサッ。 布団を払いのけたその主は、驚いた様子でオレのほうを見る。 その途端。 パチッ。 部屋の明かりがついた。 そこには、驚いた顔の朝月裕がいた。 「お前らは、天原真希と森村海……！」 オレと明かりをつけた主を見比べて朝月裕が叫ぶ。 そう。 電気をつけたのは海であった。 「残念だったな。綾子さんはここにはいないぜ」 にやっ。 オレは笑みを浮かべる。 「霊能探偵なんかやめて、泥棒にでもなったほうがいいんじゃない？」 オレはガラスカッターで破られた窓を指差していった。 「く……っ！」 朝月裕は悔しそうな顔をした。 綾子さんの家に泊まり込むことにしたオレ達は。 敵の目をくらますために、綾子さんのベッドで寝ていたのであった。 綾子さんは別の部屋で寝ている。 うまいことひっかかってくれたようである。 「さて、これからどうする？」 オレは腕を組んでいう。 「今戦ったところで、お前に勝ち目はねーぞ。朝月裕……いや、妖怪」 「な……に……!?」 ヤツは驚いた顔でオレを見た。 「バレてんだよ。取り憑いてることぐらい」 フフンッ。 オレは笑みを浮かべた。 「………っ」 ヤツはじっとオレを見つめる。 ―――そして。 「影幕(かげまく)！」 「何!?」 バッ！ 突然煙幕のようなものが広がって。 あたりは一瞬のうちに真っ暗になった。 視界はまったくきかない。 しかし。 かすかにヤツの動く気配がした。 そして。 「うわっ!?」 「海!?」 オレは海の声に驚いて振り返る。 「さらばだ、天原真希！」 「貴様……！」 消えつつある煙幕の向こう側で、ヤツが海を抱え、窓から飛び出していったのが見えた。 オレはあわてて窓へ向かう。 「海！」 窓の向こうには、２人の姿はすでに見えなくなっていた。 「………っ」 ギュッ。 オレは窓枠を強く握り締めた。 「真希さん、何があったんです!?」 今の騒ぎを聞きつけて、別の部屋で寝ていた綾子さんがやってきた。 「……ヤツが来ました」 オレは綾子さんのほうを振り返った。 「え……!?」 「あなたに危害が及ぶことは避けられましたが、そのかわり、海がさらわれました」 「なんですって!?」 綾子さんは目を丸くした。 「どうするんです!?」 綾子さんは心配そうな顔でいう。 「アイツを助けに行きます。たぶん、ヤツもオレが来るのを待ってるでしょうし」 オレは窓の向こうがわを見つめた。 「え……!?」 「ヤツの目的はオレらバスターです。もうあなたに危害を加えることはない。ここで待っててください」 オレはそういって部屋から出ようとした。 「ま……待ってください！」 そんな綾子さんの声に、オレは振り返る。 そこには必死な表情の綾子さんがいた。 「お願いです。私も連れて行ってください！」 「え!?」 オレは驚いて綾子さんの顔を見つめる。 綾子さんはいたって真剣な顔であった。 「朝倉くんがこんなふうになってしまったのには、私にも責任があるんです」 「そんなことないですよ」 オレがそう否定すると、綾子さんは首を振って。 「いいえ。妖怪って、人の心の隙間に入り込むって聞きました。私は彼の親友なのに、彼の心の隙間に気づけなかった……！だから、私、事の顛末を見届けたいんです！」 綾子さんはまっすぐにオレを見つめた。 「………」 フウ。 オレはため息をつく。 そして。 「……わかりました。そのかわり、オレのいうことをちゃんと聞いてくださいよ」 ニッ。 オレは笑みを浮かべた。 「はい……！」 綾子さんは力強くうなずいた。 「さあ、ついた」 タンッ。 オレは綾子さんを抱えたまま、公園の入り口の前に降りた。 ここは南池袋公園。 綾子さんを連れてオレはヤツの妖気をたどってここまで来たのだった。 「驚きました？」 オレはいまだに少しこわ張ったままの綾子さんに声をかける。 「まさか……空を飛べるなんて……」 綾子さんは言葉少なにいった。 「ははっ。まあ、オレはいろんな意味で"変わって"ますからね」 オレは苦笑いを浮かべる。 「はあ……」 綾子さんは今いちわからなそうな顔でうなずいた。 「それはそうと……ここに朝倉くん達が……？」 綾子さんがたずねる。 「ええ。この公園中にヤツの妖気が充満してる」 オレはあたりを見回しながらいった。 「そういうワケで、綾子さん。ここで待ってて―――」 オレはそういいかけて綾子さんのほうを見る。 「………」 綾子さんはまっすぐにオレを見ていた。 「―――いられるワケないですよね」 ふう。 オレはため息をついて笑みを浮かべた。 「それじゃ、コレ、持っててください」 スッ。 オレは綾子さんに１枚の呪符(フダ)を差し出した。 「これは……？」 綾子さんは呪符を受け取ってたずねる。 「結界符です。これを持っていればとりあえず安全ですから」 「はい」 綾子さんはうなずいた。 「さて。そんじゃま、いきますか。オレからなるべく離れていてください」 「え……？」 綾子さんはけげんそうな顔をする。 「いくら呪符を持ってたって、オレのそばにいたら巻き込まれてしまいますからね」 にっ。 オレは笑みを浮かべる。 「わかりました」 綾子さんはうなずいた。 「さて、と」 ふう。 オレはため息をして、公園内へ足を踏み出した。 「よう、妖怪！来たぜ。出てこいよ！」 ―――その途端。 ザワザワザワ！ 公園内に突風が吹き抜ける。 そして。 「よく来たな！ダーク・エンジェル、天原真希!!」 ザアーッ！ 風と共に。 オレの目の前にヤツとロープに縛られた海が現れた。 「真希……」 海がオレを見て、すまなそうな顔をする。 「どうやら海は無事そうだな」 ふう。 オレはため息をついた。 「それにしても、おたく、オレのこと、よく知ってんじゃない」 オレは腕を組んでいう。 「一体、おたく、ダレ？」 オレがそうたずねると。 「おれは、貴様が半年前に殺した、闇夜叉(やみやしゃ)の弟、影夜叉(かげやしゃ)だっ」 そう答えて、オレをにらみつけた。 「オレが半年前に殺した、闇夜叉の弟……？」 オレは聞き返す。 「そうだ」 影夜叉はオレをにらみつけたまま、ゆっくりとうなずいた。 「……って、"闇夜叉"ってダレ？」 オレは影夜叉にたずねた。 すると影夜叉は一瞬、ア然とした顔をして。 「ち……ちょっと待て。貴様、まさか覚えてないのか!?」 「ぜーんぜん」 オレは肩をすくめた。 「な……なんてヤツだ……」 影夜叉はあきれた顔をする。 「そういうヤツだよな、お前って」 そんな海のつぶやきが聞こえてきた。 あいつ、ずいぶん余裕あるな。 「で、そういうワケで、おたくはオレに復讐に来たと」 「そうさ。闇夜叉の兄者が殺された時、おれは地獄刑務所の中だった……出所して、兄者がダーク・エンジェルに殺されたと聞いて……おれは貴様を殺すために今回のこの事件を起こしたのさ。事件が起きれば、貴様が動き出すし、人間の心臓は、おれにとっちゃ最高のエネルギー源だからな」 影夜叉はオレをにらんだままいった。 「ふーん。なるほどね。そのために朝月裕を利用したってワケか」 「おれ本来の姿のままじゃ少し目立ち過ぎる。だから、人間に乗り移る必要があった。そんな時に見つけたのがコイツさ。コイツは"力"がほしくてあせってた。だから、おれが"力"を貸してやるっていったら、あっさり乗り移らせてくれたぜ」 ニヤッ。 影夜叉は笑みを浮かべた。 「そんでもって、毎週土曜日にお前が現れて人間を襲うと」 オレはため息をついた。 「人間の心臓をエネルギーに完全に変換させるためには、1週間必要だからな」 「朝月裕は人間を襲っていたことを知ってるのか？」 オレは影夜叉にたずねる。 「知ってたぜ。ただ、だからってコイツにはどうしようもないことさ。コイツは、おれの"力"のおかげで有名になれたんだ。おれに逆らうことなど、できるわけなかろう？」 「なるほどね」 オレはうなずいた。 「さて。ムダ話はこの辺にして、ダーク・エンジェル。覚悟しろッ！」 影夜叉はそういうと。 バッ！ 宙に飛び上がって、夜の闇に姿をくらました。 そして。 「―――！」 バッ！ オレは気配を感じて脇へと飛ぶ。 ドドォンッ！ オレのすぐ横を雷撃が落ちていった。 すごい衝撃である。 しかし、相変わらず影夜叉の姿は見えなかった。 「さすがだな、ダーク・エンジェル！しかし、いつまで続くかな……！」 闇に影夜叉の声が響く。 それに続いて。 ドドォンッ！ ドガァッ！ ドゴドゴォッ!! 次々と雷撃がオレを襲う。 オレはそれをすべて気配だけでかわしていく。 影夜叉の姿はまったく見えない。 オレは雷撃をかわしながら、影夜叉の妖気を追っていた。 ―――そして。 「破邪符(はじゃふ)！」 シュッ！ 「うオッ!!」 ドサッ！ 影夜叉はオレのそばに落ちてきた。 「………っ！」 影夜叉はオレをにらむ。 「さて、どうする？」 オレは腕を組んだ。 「………」 影夜叉はゆっくりと立ち上がる。 そして。 スッ。 影夜叉の姿が消えた。 「………」 オレは周囲を見渡す。 ―――その時。 「な……っ！」 突然。 オレはからだ身体が動かなくなってしまったのだ。 「ハッハッハッ。どうだ、ダーク・エンジェル！」 足下から影夜叉の声が聞こえる。 影夜叉は公園の電灯でできたオレの影に入り込んでいるようだ。 「これで貴様は身動きがとれまい」 影夜叉は得意そうにいう。 「………」 オレは唇をかんだ。 「さあ、ダーク・エンジェル。覚悟しろ！」 影夜叉が攻撃しようとした―――その瞬間。 「破邪符！」 「な……っ!!」 ドォンッ！ 「うオーッ!!」 ザッ！ 傷だらけの影夜叉がオレの前に現れた。 「ぬかったな」 オレは影夜叉を見下ろす。 「ど……どういう……っ！」 影夜叉が喘ぎながらオレにたずねた。 「オレぐらいのレベルになると、言霊(ことだま)―――声で呪符(フダ)を操れるのさ」 にやっ。 オレは笑みを浮かべた。 「く……っ」 影夜叉は悔しそうな顔をした。 「……さて。覚悟してもらおうか」 オレはそういうと。 スッ。 呪符を取り出した。 その呪符を影夜叉の額にはりつける。 ―――そして。 「破邪符！」 「ウオォォォーッ!!」 影夜叉は叫び声を上げながら朝月裕から飛び出すと。 ザアーッ。 跡形もなく消えていった。 そして。 バタン！ 朝月裕は気を失って倒れてしまった。 「これでひとまずは一件落着、か」 ―――…… オレはかがんで、朝月裕の疲れ切ったような横顔を静かに見つめた。 |
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