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『天国の事情』 ファイル５・鬼ごっこの事情 ＜＜２ ４＞＞ |
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３ 「ほらあ、早く歩きなさいよっ」 「……はあい」 ９月とはいえまだまだ暑いこの季節。 まあ、例年に比べりゃ多少はしのぎやすいんだけどさ。 でも、なあ。 「………」 「………」 隣にいる海と２人、顔を見合わせる。 今日はテレビ局のバイトは休みである。 ……しかし。 オレ達は２人とも、大荷物を抱えさせられていた。 服やらぬいぐるみやらお菓子やら。 目の前で小憎たらしく笑ってるガキ……違った、子供はもちろん紅葉である。 「ちったあ、ゆっくり歩いてくれよ。いっくらなんでもこの荷物、多過ぎだって」 オレは紅葉に抗議する。 「だらしないわねえ、あなた達、日頃テレビ局で重たい物運んでるんでしょ？それくらいで音をあげてたら、高山さんに怒られちゃうわよ」 紅葉は涼しい顔でいう。 うーっ。 ……やっぱりムカツク。 ―――で。 なんでオレ達が紅葉に再び付き合っているのかというと。 オレがいった、『もう一つの共通点』を確認するためだ。 『もう一つの共通点』。 それは、事故が起きた日には、紅葉が局内で目撃されていることが多い、ということだ。 もちろんこれもただの偶然、ということも考えられる。 紅葉自身、局内で有名になるほど頻繁に訪ねてきているわけだから。 そういうわけで。 本当に紅葉が犯人なのかを確かめるために、紅葉のそばについていようと考えたわけである。 そのためには、紅葉がスタジオに行ってくれないと確認できないのだが……。 「ここまで来てるのにな……」 ふう。 海は荷物を抱えたままため息をつく。 紅葉に頼んで、局内を案内してもらおうと思っていたのだが、結局彼女の気まぐれに振り回されてるオレ達。 とりあえずテレビ局の近くまでは来たものの、なかなかテレビ局には行ってもらえなかった。 「ったく。ほんっとに気まぐれなお嬢さんだよ」 オレもそういってため息をついた。 「ちょっと２人とも、何こそこそと話してんのよっ」 どうやらオレ達の会話が聞こえていたらしい。 紅葉はむっとした顔をしていた。 「いや、あはははは……」 「なんでもないって」 ご機嫌を損ねさせると、ますます予定外の行動をする。 オレ達はそのことを今日だけでイヤってほどわかっていたので、とりあえず笑ってごまかした。 万事がこんな感じである。 ったく。 何故にガキのご機嫌取りをせにゃならんのだ。 ふう。 仕事じゃなけりゃ、はったおしてるぜ。 「さあて、次はどこへ行こうかなあ」 紅葉が楽しそうにいう。 ……どうやら、テレビ局に行く気はさらさらないようである。 「なあ、紅葉、そろそろテレビ局へ……」 痺れを切らしてオレがそういうと。 「い・や・よっ」 即答である。 「はじめはＯＫしてくれたじゃねえかよー」 「気が変わったのっ。また今度ね」 あっさりという紅葉。 「そりゃねえだろ〜」 「文句いうと、もう絶対テレビ局の案内なんかしないからねっ」 ……暖簾に腕押しって、まさにこのことである。 ふう。 オレはため息をついた。 と、そのとき。 「あっ、おい、春花さんが出てる」 すぐそばの電気屋の店頭のショウウィンドウに飾られていたテレビを海が指差した。 「あ、本当だ」 オレも海につられて立ち止まった。 春花さんがゲストコメンテーターで出てる。 どうやらこないだ出版した本の宣伝をかねているようであった。 「………」 「紅葉？」 オレは何もいわない紅葉が気になって、彼女のほうを見た。 その横顔は複雑であった。 紅葉は食い入るように……いや、にらみつけるようにテレビを見つめていた。 『そうですね。子供といえど、１人の人間です。自主性は大切にしていかないと』 『なるほど。でも、そこが難しいんですよね』 『確かに。でも、子供には子供なりの考えというものがあります。親がそれをつぶしてしまっては、子供の成長の妨げになります。そこは気をつけないと』 『最近、子供にかまいすぎの親とかいますけど、それはどうお考えですか？』 『あれは良くないと思いますよ。体よく子供の意見を無視しているに過ぎません。もっと子供の自由にしてあげないと』 『そうですね。さすがは子育てと仕事を両立なさってる小川さんですね』 「なにが……」 「え？」 かすかに紅葉が何かをいっているのが聞こえて、オレは紅葉のほうを見た。 ……ちょっと待て。 これは……っ。 「なにが"自主性"よ……格好つけたこといって……なにもわかっちゃいないくせに……っ!!」 ―――そのとき。 バリンッ!! 突然、目の前のショウウィンドウが派手な音を立てて割れた。 「な……っ！」 オレ達は反射的にそれをよけて身を守る。 オレ達がそっちに気を取られているうちに。 「紅葉!?」 一瞬。 小さな人影が見えた。 え……っ!? その顔は、なんだか少し寂しげに見えた。 が、それも一瞬だった。 「うっ!?」 ビュゥッ！ 突風が吹きつけてきて、それに紛れるかのように、紅葉の姿がフッと消えてしまったのだった。 「紅葉ッ!?」 オレは辺りを見渡す。 しかし、飛び散ったガラスの破片と、今の騒ぎを聞きつけて、徐々に集まりつつある人垣しか目に入らない。 紅葉の姿はどこにも見つけることはできなかった。 「ど……っ、どういうことだよ!?」 海が呆然とした顔をする。 「……召鬼だ」 「えッ!?」 海が驚いてオレのほうを見た。 「ちょっと待てよ!?あの子が呼んだのかよ!?」 「強い妖気を感じた。それに……一瞬、姿が見えた」 あの小さな人影……間違いなく召鬼だ。 ―――しかし。 「真希？どうした？」 オレが少し考えるような顔つきになって、海は怪訝そうにたずねた。 「ん……いや……」 一瞬見えた召鬼のあの顔……一体どういう意味だ……？ ―――……。 ……今はそれどころではない、か。 オレは思い直して、話を続けた。 「……なんでもない。それより、おそらく、召鬼が紅葉の感情に反応して、暴走したんだろう。このままほっといたら、紅葉のヤツ、何をしでかすか」 「じゃあ、早いとこ追いかけないと……！」 「ああ、そうだな……しかし、どこにいっちまったんだ？」 オレは唇をかみ締めた。 「……テレビ局だ」 海がきっぱりといった。 「え？」 「さっきのアレ、生放送だろう？きっとそのスタジオに向かってるんだ」 「どうしてわかるんだよ？」 オレは海にたずねた。 「……似てるんだ、あの子。昔の俺に。だからなんとなくわかる。彼女が今、何を思っているのか」 海はかろうじて壊れなかったテレビに映る、春花さんの姿を見つめていう。 「俺の親父も母さんも忙しい人でさ。なかなか俺をかまってはくれなかった。１人でいることがものすごく多くてな。寂しくて……よく逆らった態度を取ったもんだよ」 「そうか……」 そういえば。 こないだの海がいっていたことを思い出した。 『俺も親父や母さんに反発した覚えあるし』 そういった海の横顔が、寂しそうだった。 それはそういうことだったのか。 「紅葉が抱えてる寂しさを春花さんは理解してない。それどころか……テレビでああやって自分を正当化してるようにしか、紅葉には見えないんだろうな。だからきっと、その寂しさを理解してもらおうと、そう思ってると思う、彼女」 海は向こうに見える、テレビ日本の社屋を見つめた。 「……そうとなれば、急いで追いかけねーとな」 ふっ。 オレは笑みを浮かべた。 が。 「……しかし、コレ、どうするかな……」 オレは紅葉に持たせられていた、大量の荷物を見てため息をついた。 「あ」 海も気づいて、自分の持っている荷物を見る。 「ちっ、しゃあない。ここに置いてくぞ」 ドサッ。 オレは抱えていた荷物を下に置いた。 「えっ!?」 海が驚いた顔をする。 「紅葉を追いかけるほうが優先だろ？ほらっ、とっとと行くぞ」 「えっ、あっ、おいっ！」 テレビ局へと走り出したオレに海は仕方なくオレにしたがって、荷物を置いて追いかけてきた。 こうしてオレ達はテレビ局へと足早に向かった。 今日は休日。 そして、テレビ日本の社屋周辺は、繁華街である。 そんなわけで、かなりの人目がある。 仕方なくオレ達は空からではなく、普通に走ってテレビ局へと向かった。 ただ、テレビ局からさほど離れた場所にはいなかったため、オレ達の足で５分ほどでテレビ局の前に到着することができた。 「よし、行くぞっ」 ようやくテレビ局に到着して、オレ達がテレビ局に入ろうとすると。 ピーポーピーポー…… パトカーの音が近づいてくる。 まもなくパトカーはテレビ局の前で止まった。 「真希！」 聞き覚えのある声がパトカーから降りた人物から聞こえてきた。 「室町さん」 オレと海は室町さんのほうを振り返った。 「お前たちがいるということは、ソレ関係なのか？この騒ぎ」 「やっぱ、何かあったのか？室町さん」 逆にオレは室町さんにたずねた。 「え？知らないのか？局内に子供が乱入してきて、メチャクチャに暴れて大変なことになってるって通報があったんだよ」 「なんだって!?」 オレと海はお互いの顔を見る。 紅葉だ。 間違いない。 「てっきりお前たちがここにいるから、事情は知ってるものだと思っていたが……」 「悪い、室町さん。詳しい話は後だ。……海、行くぞ」 「ああ！」 オレ達はテレビ局へと乗り込んだ。 局内はパニック状態だった。 いろんな人が右往左往している様子。 何が起きているのかよくわからないようだ。 建物内ということもあって、荒れ加減は半端ではなかった。 「あ！天原と森村!!」 今度は高山氏に声をかけられた。 彼もかなりあわてた様子だ。 「ったく、何がどうなってるのかわからないよ。紅葉が何かしでかしてるようだが……ありゃどうなってるんだ!?」 高山氏はまったく事情がつかめていない様子である。 ……まあ、それも当然だが。 「やはり、紅葉ですか？」 海が高山氏にたずねた。 「あっ、ああ……。『みんなキライ』とかなんとかつぶやきながら歩いていたんだが……あの子のそばにいる人形みたいなヤツが暴れ回って、全部めちゃくちゃになっちまってるよ」 ガシガシ。 高山氏は頭をかきむしった。 「紅葉は今どこに？」 オレは高山氏に尋ねる。 「ん……？Ａスタのほうに向かってたぞ」 「Ａスタ？てことは、やはり今、春花さんが収録中の……」 海がそういうと、高山氏は時計を見て。 「時間的には収録は終わってんだろ。ただ、まだスタジオには残ってるんだろうなあ」 高山氏は顔をしかめた。 「じゃあ、急がないとまずいな」 オレは海のほうを見る。 「だな」 オレ達はうなずいた。 「おい、お前ら、何か知ってるのか？」 高山氏がオレ達に怪訝そうにたずねる。 「そんなことより、早く逃げたほうがいいですよ。警察も来てますし」 海はそういって高山氏を出口のほうへとうながした。 「お前たちは？」 「紅葉を止めに」 にっ。 オレは笑ってこたえる。 「え!?」 高山氏は驚いた顔をしたが、オレ達はそれを無視して、先へと進んでいった。 ―――紅葉。 とりあえず早まったことはしでかさないでくれよ……！ オレ達は祈るような気持ちで紅葉と春花さんがいるスタジオへと向かった。 |
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仔猫の遊び場
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