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『天国の事情』 ファイル６・刑事の事情 ＜＜１ ３＞＞ |
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２ 「うーん、いいところに住んでるよなあ、室町さん」 都内にある、いわゆる高級マンション。 警視庁からもさほど離れていない距離にある。 独身にもかかわらず、室町さんはそんなところに住んでいた。 あれから結局、室町さんは警視庁には寄らず、直帰をすることにした。 時間がもう定時を過ぎていたことと、オレ達のことを考えてのことである。 警視庁のほうに電話をし、そのままこのマンションへと帰ってきたのであった。 「お前はここに来るたびにいつもそれをいうよなあ」 室町さんはオレ達にコーヒーを出しつつ、あきれ顔でいう。 「真希は何度か来たことがあるんだ？」 海は出されたコーヒーをすすってたずねた。 「まあな。そのたびにここにたかろうかと思っちまうよ」 「……やめてくれ」 室町さんは苦笑いした。 ―――宮部由紀子の墓を立ち去ってから。 室町さんはオレ達に彼女と、そして弟の宮部明俊との関係について話してくれた。 宮部明俊は室町さんの先輩だった。 宮部は室町さんの教育係として、一緒に仕事をしていた。 キャリア組の室町さんとは違って、宮部は叩き上げで上がってきた人ではあったが、二人はそれなりに上手くやっていた。 そんな中で、彼の双子の姉であった宮部由紀子とも親しくなっていった。 そして、事件が起きた。 宮部由紀子が元恋人を殺してしまったのだ。 彼女は以前から元恋人にストーカーまがいのことをされ、室町さんや弟である宮部に相談をしていた。 その矢先のことだった。 元恋人の仕打ちに耐え切れなくなってのことだった。 彼女は逃走した。 警察側の捜査では、なかなか彼女の足取りはつかめず、捜査は難航した。 しかし、なんとか、宮部は彼女と連絡を取ることができた。 宮部は電話で彼女を説得し、ある場所で落ち合って、自首するよう促すはず……だった。 しかし。 宮部と彼女が待ち合わせの場所で顔をあわせた瞬間。 彼女たちは警察官に囲まれた。 パニックに陥った彼女は、宮部の制止も聞かずに、元恋人を殺した凶器で自らの命を絶ってしまった。 彼女がこの場所で待ち合わせていることを知っていた人物は、宮部を除くとただ１人。 室町さんだった。 宮部は室町さんを信用して、そのことを話していた。 そして、姉をきちんと説得してみせるから、誰にも話さないでくれ、信用してくれ、と。 「だけど、話しちまったのか……？」 オレが室町さんにたずねると。 「……ああ。言い訳をするつもりはないがね……」 そういって苦笑を浮かべた。 宮部が自分の姉と連絡を取っていることを察した室町さんの上司は、室町さんに本当のことをいうように迫った。 彼は室町さんの恩人でもあり、今の室町さんがあるのもその人のおかげ、というほどの人で。 その人に 『君の事を思っていっているんだ』 そういわれてしまった。 確かに、真実をいわなければ、室町さんの出世は難しくなる。 しかし、先輩を信じたい。 でも、恩人を裏切ることもできない……。 「確かに、あの人がいっていることは、警察官としては正しいことではあったし。何より……『君には期待しているんだよ』っていわれてな……結局、自分の保身をとってしまったんだよ」 室町さんはそういって、自嘲気味に笑った。 ―――結局。 その後、宮部は警察を辞めた。 室町さんは葬式に行こうとしたが、宮部につっぱねられてしまった。 墓の場所だけは人づてに聞き、宮部には何もいわずにこっそりと墓参りをするくらいしかできなかったそうだ。 そんなわけで、宮部は室町さんを見たときにあんな態度に出たのであった。 フクザツ―――だよな。 「あれからもう、４年も経つんだな……」 誰にいうでもなく、室町さんはつぶやいた。 「宮部さんにも、由紀子さんにも恨まれて当然の男だからな、おれは」 ふふっ。 室町さんは自嘲する。 「そんな……」 海は何といっていいかわからない顔をしていた。 大牙はそんな様子を興味があるのかないのかよくわからない感じで見ている。 まあ、コイツの考えていることが読めないのは、いつものことだが。 「……結局、室町さん的には、オレらのガードは無用、といいたいわけか？」 ふう。 オレはため息をついた。 「人情的には、な。しかし……お前らも仕事だしな。何より、由紀子さんが何かしたら、由紀子さん自身が捕まったとき、大変な目に遭うんだろ？」 「まあな」 オレはうなずいた。 確実にカルマ払いの期間は長くなる。 室町さんにもしものことがあったら、それは人間の一生の期間より長くなる可能性だってあるのだ。 ―――自分のためより、人のため、か。 「ったく。おたくもお人よしだよなあ」 オレは苦笑した。 「ほっとけ」 室町さんも笑みを浮かべた。 「……さて。ここでじっとしてるのも性じゃあねえな」 オレは立ち上がった。 「ちょっくら出掛けてくる」 「どこへだ？」 室町さんがたずねた。 「……会いに行こうかと思ってな。宮部明俊に」 オレがそういうと。 「……そうか。案内したいところだが……おれは一緒には行けないな……」 室町さんは複雑そうな顔をした。 まあ、無理もない。 オレはそんな様子に軽く苦笑して。 「まっ、気にするなって。……海、行こうぜ」 オレは海をうながした。 「あっ、ああ」 海があわててソファから立ち上がると。 「ちょっと待てよ」 大牙がオレ達を呼び止めた。 「ん？どうしたよ？」 オレは大牙のほうを振り返る。 すると。 「海とじゃなくって、おれと行こうぜ」 「はぁ!?」 オレは大牙に聞き返した。 「いいじゃん。室町氏は海に任せて、さ」 「しかし……」 オレが渋ると、大牙はさらに畳み掛けるように続けた。 「宮部由紀子が地獄から逃げ出したのは、今から２ヵ月近く前の自分の命日だ。なのにいまだに襲ってくる様子はない。この様子じゃ、今すぐ何かあるとも考えられないだろう？それに、もし仮に何かあったって、携帯で連絡取れば大丈夫な話じゃないか」 「まあ、そうだが……」 オレは曖昧にうなずいた。 「じゃ、きーまりっ。行こうぜ、真希」 思わず何もいえなくなってしまっているオレ達。 そんなオレ達を尻目に、大牙は顔を輝かしてさっさと部屋を出て行ってしまった。 「ったくう」 オレは大牙の出て行ったほうを見て、ため息をつく。 「……まあ、しょうがない。海、こっちは頼んだぞ」 「ああ。わかった」 海は苦笑してうなずいた。 オレはそれを確認すると、歩き出す。 が。 「あっ、真希」 室町さんがオレを呼び止めた。 「ん？」 オレは立ち止まって振り返る。 「いえた義理じゃないが……宮部さんによろしく、な」 「ああ」 にっ。 オレは室町さんに笑みを返した。 「ったく。どういうつもりだよ」 結局。 オレは大牙と一緒に宮部明俊の家に向かっていた。 大牙はもちろん、地上用の姿になっていた。 何を考えてるのかわからないが、とにかく楽しそうな顔をしている、大牙。 ヤツのそんな様子を見て、オレはふーっ、とため息をついた。 「何難しいカオしてるんだよ」 「……ダレのせいだよ」 オレは軽く大牙をにらむ。 「うーん、つれないなあ」 大牙のニヤニヤ顔はそのままであった。 「本当に何を考えてるんだよ、お前は」 オレは頭を抱える。 すると。 「それは、おれのセリフだよ」 「え……？」 思いのほかまじめな口調の大牙に、オレは思わず聞き返した。 「今まで長いことまともに誰かとパートナーを組んでなかったお前が、もう５ヵ月も１人のヤツと組んでる。それを聞いて、どんなヤツと組んでるのかと思えば……なんだよ、アイツは」 その口調には少し怒りが含まれているように感じた。 「……どういうイミだよ？」 なんとなく、何がいいたいのかはわかる気がした。 内心、面白くない感情が湧き上がる。 が、オレはそれに気づかないふりをしてたずねた。 「お前は、闇世界ナンバー１のバスター、"ダーク・エンジェル"だろう？そのお前が組んでる海は……お前の足元にも及ばないほどの霊力しかないじゃないか。はっきりいって足手まといじゃないのか？」 「………」 やはりそうきたか……。 ふう。 オレはため息をついた。 「お前は……おれがパートナー組むっていっても断ったじゃないか。"力"の点ではおれはお前とつりあってる。でも、お前は断った。なのに、なんで霊力があんなにないアイツはいいんだよ？」 ……確かに、何度となくいわれた。 『おれと組んでくれ』って。 大牙はなんだかんだいっても、かなりの能力者だ。 地上治安課においては、過去に何度か、天上人以外がバスターになった例もあった。 だから、大牙でも……いや、大牙だからこそオレのパートナーとして適しているのかもしれない。 だけど……。 「……もともと、オレは誰かとパートナーを組む気はなかったよ。だから、課長に勧められたパートナーもすぐにやめさせちまったし、お前の申し出も断った。でも……な。海に会ったとき、こいつとなら組んでもいいかなって、そう思ったんだよ」 「どうしてだよ？」 大牙は釈然としない顔をしていた。 「なんでだろうな？オレにもわからん」 オレは苦笑した。 「ただ……アイツがまっすぐにオレを見つめてきた、あの瞳におされたのかもしれないな」 いまだに覚えてる。 オレのパートナーにしてほしいと、そう頼んだ時の海のまっすぐな瞳。 何にも負けない強い輝き。 オレには持っていない強さを秘めていた。 だから――― 「後悔はしてないよ。アイツをパートナーにしたこと。だから、あまりアイツのこと、悪くいわないでくれるか？」 オレがそういうと。 「真希……」 大牙はそれきり、複雑な表情のまま、何もいわなかった。 「まっ、そんな話はともかく。ほら、あそこだろ？宮部のマンション。早いとこ行こうぜ」 「……ああ」 ふっ。 大牙は笑みを浮かべた。 そうしてオレ達は、宮部のマンションへと入っていった。 |
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仔猫の遊び場
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